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B社

パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル・好事例集(飲食サービス業)より

成長過程を支援する計画的な研修の実施によりキャリアアップを実現

3.教育訓練等の能力開発
4.人事評価
5.キャリアアップ・
正社員転換推進措置
6.福利厚生・安全衛生
8.職場のコミュニケーション等
所在地 東京都 業種 飲食店
従業員数 2505名 パート労働者数 2245名
ポイント
  • 職務レベル別の能力開発によりキャリアアップを実現。
  • 公正な人事考課の実施による透明性・納得性の確保。
  • 計画的な正社員転換推進制度の実施。

(1)企業概要・人員構造

同社は、複合事業を営む母体企業のフードサービス事業の拡大に伴い、平成11年にフードサービス事業が分社化され設立された。業態はカフェ部門とダイニング部門があり、東京圏に集中的に出店し、現在122店舗をすべて直営店として展開している。また、高品質の製品を安定供給するため、自社工場を3か所有している。

従業員は、正社員とキャスト(パートタイム労働者。ただし、一部にパートタイム労働者でない者も含む。)の2つの雇用区分から構成されている。正社員は、主に店舗等のマネジメントに従事しているのに対して、キャストは、店舗での接客や調理に従事している。店舗は、地域特性やフロア面積に応じて小規模店舗から大規模店舗まであり、キャストの配置も数名程度から数十名まで様々である。

キャストの雇入時の雇用契約は、3か月の有期雇用である。その後は、6か月ごとの有期雇用となる。キャストには、「キャスト」、「フレックス社員」の2つの区分があり、本人の希望に応じ、基本勤務パターンが個別に決定される。キャストの9割は、週3~4日、1日5~6時間程度の勤務が多数を占める。本人の勤務可能状況に変更があった場合には、契約更新時に変更を申し出ることができる。また、転居等により採用店舗での勤務が困難となった場合には、転居先近くの店舗で勤務できるよう柔軟な対応を行っている。

キャストの2つの区分

区分 働き方の特徴
キャスト ①希望に応じ2週間ごとにシフトが決定される。学生が主体。
②固定シフト(例)月・水・金の週3日/10時から16時等
フレックス社員 勤務時間が週30時間以上(例)週5日/1日6~8時間勤務

賃金はいずれも時給制であり、賞与、退職金はない(店舗責任者に任じられている「フレックス社員」には、正社員に準じた賞与が支給される)。時給は、地域相場に応じて店舗ごとに決められた研修時給からスタートする。交通費(通勤手当)は、「キャスト」には原則として1日400円を上限として実費を支給し、「フレックス社員」には定期券代を支給している。

「キャスト」は原則として雇用保険加入、「フレックス社員」は加えて全員社会保険加入である。また、福利厚生制度として、正社員同様に食事補助と姉妹店で使用できる割引券の支給がある。

(2)取組の背景

同社の経営理念を実現するためには、全社員の9割を占めるキャストの戦力化は不可欠であった。フードサービスの基本にある接客と安全・安心な商品の提供に第一線で携わるのはキャストであることから、知識・技術の習得を支援する教育訓練と正社員転換制度等を計画的に実施することにより、モチベーションの向上と安定した将来設計への支援を、両輪で推進している。

(3)取組の内容

職務レベル別のキャリアステップと時給への反映

入社直後のキャストは、ルーキーキャストと呼ばれ、接客や調理などの基本的な作業の習得がOJTを中心に行われる。初期オペレーションを習得するための目安としては50時間が設定されている。

入社から累計50時間の勤務を経たキャストは、レギュラーキャストに昇格する。その後も累計勤務時間の増加に伴い、新人やレギュラーキャストの指導の役割を担うシニアキャスト、さらにリーダーキャストへとステップアップすることができる。リーダーキャストになるには、累計600時間の勤務経験が必要とされ、リーダーキャストに相応しい経験と知識を備えているかを見極める筆記試験が行われる。

ルーキー、レギュラー、シニア、リーダーの別に時給テーブルがあり、昇格に応じて時給額も高くなっていく。

公正な人事考課の実施

人事考課は、3か月に1度の頻度で実施される。評価項目は、会社コンセプト、身だしなみ・挨拶、衛生管理、機器操作、商品の基礎知識、仕込み、調理技術、抽出技術、クリンメンテナンス、マネジメント・オペレーション等である。業態ごとに必要な幅広い知識が問われ、評価表にある項目の総合計は、100以上にのぼる。

評価は、原則として店長が行うが、評価項目によっては、部門全体を統括するスーパーバイザーなどが実施することがある。これは、複数の評価者による評価により公平性と透明性を高め、被評価者の納得性を高めることにつながっている。人事考課には合格ラインが決められており、80%以上が合格とされる。合格ラインをクリアした者の評価は3ランクに細分化され、合格ラインの80%はBランク、85%以上はA’ランク、90%以上は最高のAランクとなる。リーダーキャストに昇格するためには、Aランクの評価が求められる。

計画的な正社員転換推進制度の実施

計画的に正社員の登用を推進している。3か月に1度の割合で、社内ネットワークや会社から付与された個人メールアドレスなどを通じて、正社員転換のための説明会の日程を周知している。1回の説明会には、常時5~6名が参加する。

店長やスーパーバイザー等から正社員登用が相応しいと評価される者については、会社側から転換を打診することもある。正社員登用試験は、筆記試験、適性検査、人事部による面接の1次試験があり、1次試験を通過した者には論文の提出が課される。テーマは2種類あり、正社員転換希望者のこれまでのフードサービス業界経験の有無等により、その者の強みが活かせるテーマを課題としている。

直近1年間の実績では、18名の者が正社員に登用されている。

成長過程をバックアップする研修制度

・入社時研修

企業理念、労働時間の計算の方法、接客の9か条などがまとめられたハンドブックを使用して、店舗でのOff-JTを中心に入社時研修を2日間かけて行っている。雇用契約の説明・締結は、入社時研修の冒頭で行っている。

・業態別研修

キャストを含めた全従業員の戦力化のために、ロールプレイングを中心とした集合研修、接客研修、カフェカレッジ、調理・ケーキ・珈琲アカデミーなど、業務内容に応じた研修を体系的かつ計画的に行っている。

例えば、ケーキアカデミーでは、1年間かけてステップ1からステップ5までの研修カリキュラムを終了すると、一通りのケーキに関する技能と知識が習得できる。筆記試験と実技試験をパスした者には、アカデミー認定書が授与され、名札には取組の証が記されることとなり(三ツ星シェフの証など)、モチベーション向上につながっている。

資格取得支援

調理を担当するキャストの中で調理師免許の取得を希望する者に対しては、会社が試験対策を行い支援している。都道府県ごとに異なる調理師試験の実施日も考慮して、社内作成テキストを使用した講義と過去問題の演習などを行い、調理師試験合格のための総合的な支援を行っている。資格取得支援については、人材募集時点から「興味のある方はいつでもご相談ください」と周知しており、原則として希望者は全員参加できる。社内ネットワーク上の掲示板などを通じて、試験要項及びキッチントレーナー(正社員の講習講師)による講習日程を告知している。

その他に、コーヒーマイスターや製菓衛生師などの資格取得支援も行っている。確かな技術の習得は、キャストにとって「仕事に対する自信とチャンスを与えてくれる会社」という信頼感につながっている。

気づきを促す社内の情報共有

店舗で顧客からありがとうと言われた事柄について、社内ネットワーク上の掲示板を通じて、“ありがとうコール運動”を展開している。掲示板には全店舗から寄せられた1日200件を超える情報が共有されている。クレームの目を摘むことよりも、他の従業員の言動が顧客に対してプラスに作用した事象を、自らが気づき、次の行動に活かすことでサービス向上につながっている。キャストからの報告は、その育成を担う正社員のやりがいにもなり、好循環になっている。

コミュニケーション向上の取組

毎月発行される社内報では、新入・中途社員の紹介や、新店舗・新メニューの紹介、地域イベントへの出店の様子といった情報が共有される。

また、店舗では全員ミーティングや個別面談、歓送迎会など、コミュニケーションを円滑にする取組が行われている。本社には、専用の相談窓口が設置されており、店舗では相談しづらいことがあった際には、何時でも相談可能な体制をとっている。

(4)成果と課題

キャストの教育訓練や正社員登用を進めてきたことで、接客や調理の品質が向上し、新規出店や店舗の総合力の向上に寄与している。正社員への登用は、やりがいの増大とともに賃金形態など待遇面の向上につながっている。広くチャンスの機会を提供し、能力を開花させ、若い従業員達の人生設計の支援につなげていきたいと考えている。

「フレックス社員」であることが前提となるが、現在小規模店舗の店舗責任者として4名が活躍している。店舗責任者は、管理・運営などの仕事の幅が広がり、待遇の面では正社員と同様に賞与(年2回)や業績賞与(年1回)の支給の対象となる。今後は、個々の選択を尊重しつつ、キャストでも意欲と能力のある者については、活躍の場を広げる支援を行っていきたいと考えている。

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