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D社

パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル・好事例集(訪問介護業)より

評価結果に基づく昇給制度の実施やヘルパーの意見を反映した各種手当の充実、正社員転換の積極的推進により人材確保を図る

2.賃金・労働時間
3.教育訓練等の能力開発
4.人事評価
5.キャリアアップ・
正社員転換推進措置
所在地 埼玉県 業種 訪問介護事業等
従業員数 484名 パート労働者数 265名
ポイント
  • 半年又は1年単位でヘルパーの勤務評価を行い、時給をアップ。
  • ヘルパーの意見・要望を反映し、各種手当の充実を図る。
  • 各事業所の所長推薦による正社員転換制度あり。
  • 介護福祉士の受験対策講座を実施。

(1)企業概要・人員構造

同社は、現在埼玉県内に18の事業所を展開し、500名近くの職員を抱える介護事業所である。「お客様の立場に立って考え行動する」を経営理念に、訪問入浴、訪問介護事業を中心に事業展開を行っている。

雇用形態は、「正社員」と「契約社員」の2種類である。給与を月給で支払う者を正社員とし、時給で支払う者を契約社員としている。したがって、週40時間のフルタイムで勤務する者から、それ未満の短時間で勤務する者まで、時給で給与を支払う者全員を「契約社員」と呼称している。平成25年10月5日現在、社員数484名のうち、正社員が120名、契約社員364名である。契約社員のうち約7割がパートタイム労働者である。

人員配置については、所長は正社員であるが、それ以外の職務については、正社員・契約社員の区別をせず、必要に応じて配置している。したがって、サービス提供責任者などについても、契約社員が担当している事業所もある。

(2)取組の背景

介護事業は「現場を担う職員」がいることによってサービスが成り立つ。そのため、介護事業運営上、必要な人材を確保し、長期間勤務してもらうことは、最優先課題である。したがって、職員の離職を防ぎ、定着率を高めるために、長期雇用につながると考えられる施策を実施するよう努めている。

介護事業は、介護報酬という制約があるため、賃金自体の大幅な改善を行うことは難しい。そのため、働く側の意見や要望を聴き、賃金面のみならず賃金以外の点においても、雇う側で実施可能な改善を行ってきた。

(3)取組の内容

半年又は1年単位でヘルパーの勤務評価を行い、時給をアップ

契約社員は入社半年後に勤務評価を行い、その結果に基づき昇給を行っている。評価の手順としては、事業所の所長が「会社の指示に対して職員がどのように行動しているか」、「利用者の反応や感想」等を勘案して一次評価を行った後、本部で二次評価を行い決定する。評価は「S、A、B、C」の4段階で行う(S~B評価は昇給。C評価は現時点の給与を継続)。「A、B、C」評価については、ほぼ一次評価のとおり決定するが、一番高い評価である「S」評価についてのみ、所長がその理由を記載した書面を本部に提出し、本部が認めた者についてのみ昇給することとなる。

初回以降の評価は、昇給のあった「S~B」評価者は1年後に、昇給がなかった「C」評価者については半年後に再度行う。C評価者について、半年後に勤務評価を行うのは、できるだけ昇給のチャンスを与えるためである。

ヘルパーの意見を反映し、各種手当を充実

訪問介護は、様々な利用ニーズに対応して利用者宅を訪問する形であることから、勤務場所、勤務日、勤務時間などが様々になりやすく、労働条件について社員から様々な要望が生じやすい。役員がヘルパーの要望をヒアリングし、社として対応できるものについて時給に上乗せして支払う(諸手当を設ける)ことで、その要望に応えてきた。以下がその諸手当の内容である。

図表 主な手当の概要

訪問介護の勤務の特殊性に鑑み、ヘルパー間の均衡を考慮した手当 ホームヘルパー
時間帯別手当
早朝、夜間、深夜の時間帯の勤務について、深夜割増手当とは別に手当を加算
ホームヘルパー
緊急訪問手当
緊急に訪問介護の業務が生じた場合に支給
正社員の処遇との均 衡に配慮した手当 主任手当 主任の役職に就くヘルパーに対して主任手当を支給(正社員の勤務時間とのバランスを勘案して金額を決定)
資格手当 介護福祉士、社会福祉士、介護基礎研修修了者に対して支給(正社員の勤務時間とのバランスを勘案して金額を決定)
仕事と個人の生活の両立を支援するための手当 育児手当 1歳から小学校2年生までの子について、保育園、幼稚園、託児所、ベビーシッターを利用する者を対象に、対象となる者の勤務時間を勘案して支給
訪問介護の特殊性に配慮した手当 通信手当 業務遂行上、個人所有の携帯電話を使用する必要があると認める者に支給

各事業所の所長推薦による正社員転換制度あり

訪問介護事業を運営していく上で、人材の確保は重要な課題であるため、各事業所の所長推薦による正社員転換制度を設けている。「勤務態度や実績が良好である」、「契約社員自ら正社員への転換を希望している」、「事業の運営上、正社員を増やしたい」等により、所長が正社員へ転換可能な人を推薦し、その後、本部の審査に合格した者を正社員として登用している。働きぶりを知っている所長からの推薦を経ているため、ほとんどの者は本部の審査も合格し、正社員となっている。

なお、外部に正社員の求人を行う場合には、事前に、社内の契約社員に対して正社員転換の希望の有無を確認している。

正社員となった場合には、契約社員時の時給を月額換算したものが月給となる。したがって、正社員転換時は、賃金形態が時給から月給に変わるものの、時間単価という視点でみた場合、必ずしも契約社員時と比べて高くなるわけではない。しかし、正社員の場合には、夏季及び冬季に賞与が支給される。

介護福祉士の受験対策講座を実施

介護福祉士の一次試験合格者(正社員・契約社員を問わない)を対象に、二次試験である実技試験対策の講座を会社で企画し、実施している。講座参加者が、実技試験を事前に経験することで合格の可能性をより高められるように、会場レイアウトや実技模擬試験を本試験に近い内容で準備し、実施している。

講座参加中の賃金は、通常の勤務時間と同額を支給している。また、受講時間と実勤務時間が重複したときは、講座に参加できるように配慮している。

(4)成果と課題

勤務評価制度については、職員の能力や貢献について評価し、処遇に反映していくことで、職員の定着率を高めることにつなげている。現在、各事業所の所長が一次評価を行い、加えて、事業所を巡回している本部の者が二次評価を行うことで、できるかぎり公平な評価となるように努めているが、社員数が増加し、本部の職員が各事業所の職員の勤務状況を十分に把握しきれなくなっている。評価が所長による恣意的なものとならないように、仕組みを整備していくことが今後の課題となっている。

各種手当については、職員の意見や要望を聞いてきた結果、相当数の手当を設けることとなった。職員の声を拾い、給与に反映させてきた結果ではあるが、これだけの数の手当を支給することは、給与計算上煩雑となっている。また、一旦設定した手当を単に廃止するのは難しく、職員に対して代案を提示しなければならない。さらに、現時点では手当の総額が会社にとって大きな負担とはなっていないものの、コスト面についても考慮していかなければならない。今後も支給内容や支給額について、随時検討が必要である。

正社員転換制度については、毎年10~15名程度の実績がある。契約社員よりも正社員の方が定着率が高いため、正社員転換制度を実施することで、結果として職員の定着率を高めることにつながっている。訪問介護事業を運営していくために、人材の確保は重要課題であるため、今後も継続していく。

介護福祉士受験対策講座について、職員から「講座を受講したことで、本試験への心構えができたので、参加して良かった」等の感想があがっている。なお、契約社員の合格実績は、平成22年度は8名程度、平成23年度は10名程度、平成24年は3名程度である。社員が介護福祉士の資格を取得することは、社員、会社、利用者の三者いずれにとってもメリットになる。介護福祉士の受験対策講座は10年以上前から行っており、介護福祉士以外も、その時々で必要となる資格について社内で講座を行ってきた。今後も、時代に即して必要な講座を実施していく予定である。

介護事業を拡大していくためには、人材の確保、職員の定着率を上げることが大切であり、重要課題である。賃金面、福利厚生面、人間関係の改善などで、どのような事例があるのか情報を入手し、ヘルパーの長期勤務を目指して、今後も実施可能な制度を導入していく予定である。

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