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D社
福利厚生及び教育訓練の機会を正職員と同等に付与し、共に働く仲間としての職場風土を作り、パート職員の定着を促進
正社員転換推進措置
所在地 | 東京都 | 業種 | 協同組織金融業 |
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従業員数 | 616名 | パート労働者数 | 102名 |
ポイント |
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(1)企業概要・人員構造
同金庫は、地域中小生産者の繁栄に奉仕し、社会に貢献することを経営理念に掲げる創業70年余の信用金庫であり、東京都及び埼玉県に数十の営業拠点を構える。
パート職員(パートタイム労働者)の雇用条件は、「午前9時から午後4時のうち週4日以上かつ1日5時間以上勤務できること」であり、実際の勤務時間は各人の希望を聞いて決定する。1週当たり20時間以上の勤務となることから現在勤務している102人全員が雇用保険の被保険者であり、さらに、そのうち8名は、社会保険に加入している。雇用期間は1年であり、毎年度更新しているが、パート職員を採用しはじめた平成13年以降、会社都合による雇い止めはない。
パート職員の職種は、テラー(以下、「窓口業務」という)と後方事務であり、そのいずれか一方の業務を担当する。正職員はその2つの業務も含め、事業運営上必要な他の業務も担当しており、パート職員と正職員は仕事や責任の範囲が異なる。
雇用区分と人事制度概要
項目 | 正職員 | パート職員 | |
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雇用期間 | 期間の定めなし (定年あり) |
1年間(原則として更新) | |
労働時間 | 勤務時間 | 8:30~17:30 | 9:00~15:00 又は 9:00~17:00 |
所定労働時間 | 8時間 | 5時間又は7時間 | |
残業有無 | あり | 基本なし | |
賃金 | 賃金体系 | 月給制 | 時給制 |
通勤手当の上限 | 50,000円 | 50,000円(正職員と同じ) | |
昇給 | あり | 契約上なし(ただし毎年10円ずつ自動的にアップ) | |
賞与 | あり | 契約上なし(ただし寸志として夏・冬各々一律10,000円支給) | |
退職金制度 | あり | なし | |
昇進・昇格 | あり | なし | |
表彰等 | あり | あり(正職員と同じ) | |
人事評価 | あり | なし(契約更新可否を判断するための評価は実施) | |
人材配置 | 店舗内の職務 | 窓口業務・後方事務の両方及びその他の業務 | 窓口業務・後方事務のいずれか一方を担当 |
個人面談 | 年3回 | 年3回(正職員と同じ) | |
異動 | あり | なし |
(2)取組の背景
採用したパート職員にできる限り長く勤めてもらうことは、パート職員本人の生活面や精神面に安定をもたらし、かつ同金庫にとっても採用・教育面の負担の削減につながることから、パート職員が働きやすい環境を整備するための諸施策を講じてきた。
パート職員の業務の範囲は、窓口業務・後方事務の2業務に限られるものの、仕事の内容は正職員とほぼ同じであるため、パート職員も共に働く仲間として認識しており、福利厚生や教育訓練の機会についても正職員と同様に付与している。
パート職員への応募は、子育てが一段落した人が多く、また、子育て前の職歴は銀行勤務経験がある人と無い人がいるため、パート職員間の公平を図りつつ、職務経験やスキルを評価した給与を支給するようにしている。
(3)取組の内容
勤続年数・スキルに応じた時給体系
パート職員の採用時の時給は、窓口業務は1,090円、後方事務は890円である。パート職員の労働意欲を維持又は向上させ、かつ、パート職員間の公平性を確保するために、採用後の昇給について、①毎年4月に全員の時給を一律に10円アップする(昇給回数の上限なし)、②能力・貢献度に応じて昇給する、という2通りを行っている。②については、「業務に習熟した者に対して昇給する」又は「働きぶりから優秀であると認められる者が、給与に不満を抱くことにより退職することを防ぐために昇給する」という主旨で行われ、その場合は契約期間の途中であっても昇給している。なお、①、②のいずれの場合も降給は行っていない。
正職員と同等の福利厚生及び教育訓練の機会の付与
正職員とパート職員では、職務及び責任の範囲に違いはあるものの実際に行っている業務はほぼ同じである。そのため福利厚生や教育訓練等についてはできる限り正職員と同様の制度をパート職員に付与している。
事例1 食事代の支給
食事代の補助があり、食堂がある店舗については1日自己負担額130円で食事をすることができ、食堂のない店舗については1日550円の食事手当を支給している。なお、正職員・パート職員とも補助額は同じである。
そのため、弁当等を持参せず、食堂で昼食をとる者が多い。現在は、23店舗のうち、19店舗は食堂を設けている。調理場の業務は外部業者に委託しているが、調理及び食堂の施設は自社で備えているため、故障の対応や維持に手間を要するが、職員全員の満足度を高めるために管理・運営している。
事例2 社内研修への参加
土曜日の午前中に社内で行う勉強会への参加についても、正職員・パート職員の区別無く行っており、参加者への昼食代(650円)、交通費実費を支給している。
事例3 資格取得費用の補助
証券外務員資格等、金融に関わる検定試験に合格した者については、受験料の全額を補助している。また、受講できる通信教育について記載した冊子を年に1回配布し、受講希望者には、費用の半額を補助している。なお、パート職員の利用実績は、年2、3名程度である。
事例4 社内の情報を閲覧できる制度
パート職員に対しても正職員と同様にIDを付与し、店舗の端末で社内のイントラネットにアクセスできるようにしている。業務に関する情報、人事部が発信する情報、福利厚生制度、店舗ごとのスケジュール等を閲覧できる。
事例5 表彰制度
窓口業務の者を対象に、定期預金などの契約件数の上位者を表彰している。報償として、金一封を渡し、高級レストランでの食事会に招待している。
事例6 弔慰金制度
本人又は家族が亡くなった場合は、10,000円~30,000円の範囲で、弔慰金を支給している。
優秀な職員確保のために正職員登用制度を実施
優秀なパート職員を正職員に登用することで、職場へ帰属意識を高め、かつ、本人の意欲が向上するように、平成25年9月にパート職員の正職員登用制度を導入した。試験合格後は、パート職員(有期雇用・時給)→嘱託社員(有期雇用・月給)→1年経過後に正職員(無期雇用・月給)に登用、という流れになっている。
平成25年は、8名が登用試験を受験し、2名が合格した。今後も毎年2~3名登用する予定である。なお、この正職員登用制度の概要は次のとおりである。
正職員登用制度の概要
根拠規程 | パート職員の正職員登用 |
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実施時期 | 正職員の中途採用の募集を行うとき、又は新たに正職員の配属が必要となったとき |
応募資格 | 下記の全てを満たした者 ①正職員の勤務条件(労働時間、休日)で就業することが可能 ②勤続年数3年以上 ③長期勤務の意思があり、勤務意欲が旺盛 ④心身ともに健康 ⑤業務に必要な各種資格を取得する意思あり ⑥配置転換等の業務命令に応じられる ⑦所属長の推薦がある |
申請手続き及び試験 | 正職員登用希望者が、所定の申請書に所属長の推薦書を添えて総務部に提出する。 登用試験は筆記試験及び面接試験を行う。 |
正職員登用時期 | 正職員登用決定後にパート職員から嘱託職員(月給)へ転換して1年経過後 |
正職員登用後の処遇 | (1)資格等級:職務・能力・経過等を考慮して決定(登用時は大卒新卒者の等級で処遇する) (2)退職金:正職員登用後の勤務年数を対象とする |
※登用後の年収は、パート職員時の年収の2倍以上となる見込みであり、登用後の勤務時間の増加割合に比べて、収入の増加割合の方が明らかに大きい。
人事面接等でパート職員の要望を聴取し、離職を防止
5月、9月、1月の年3回、店長がパート職員に1回10~15分程度の人事面接を行っている。その際に、職場での状況、仕事の満足度(又は不満がないかどうか)、人間関係の悩み、異動の希望、健康状態、家族のことなど本部が用意した所定の項目に従って、店長がパート職員から話を聞くようにしており、面接で明らかになった要望については各店舗や本部で対応している。本部では、日頃から店長が相談しやすいように努めており、店舗で対応できない事案は本部で対応している。個別の事案にも丁寧に対応し、パート職員が離職せずにすむ方法を検討し、可能なものについては実施するよう努めている。
なお、毎年3月には、契約更新の可否を判断するために、各店舗の店長が下記の内容についてパート職員ごとに評価を行い、その書面を本部に提出することとなっている。本部から店長に対して、全社一律の判断基準を示すことにより、店長が更新の可否について、客観的な判断が行えるようにしている。
契約更新についての判断基準
更新希望 | 有・無(本人の希望の確認) |
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パート職員のスキルについて | ①仕事の正確さ (1 不正確・2 やや不正確・3 普通・4 正確・5 とても正確) ②仕事の速さ ※経歴に比べて (1 ゆっくり・2 ややゆっくり・3 普通・4 速い・5 とても速い) ③応対について (1 とても悪い・2 やや悪い・3 普通・4 良い・5 とても良い) ④協調性について (1 全くない・2 ない・3 どちらともいえない・4 ある・5 とてもある) ⑤コンプライアンス意識 (1 低い・2 やや低い・3 普通・4 高い・5 とても高い) ⑥その他 パート職員本人に希望すること、意見 |
(4)成果と課題
給与について、全員一律に10円の昇給をする制度を継続している。
給与以外の処遇については、できるかぎり正職員とパート職員を同等にしたいと考え、諸々の施策を講じてきた。
現在勤務しているパート職員の平均年齢は49.1歳、これまでの最高年齢は64歳、平均勤続年数は6.8年である。また、昨年1年間におけるパート職員の退職者数は、パート職員約100名のうち5名程度、今年度は直近半年間で1名程度であり、退職者は少なく、これまでの各施策が長期の継続勤務に結びついていると実感している。
さらに、現在在籍している全女性従業員のうち、正職員では50名程度、パート職員では4名程度が育児休業を取得した実績があり、継続勤務しやすい職場環境が整っている(パート職員の育休の実績が正職員に比して少ないのは、パート職員は子育て後に応募してくる人が多いためであり、育休の制度については正社員と同様にパート職員も利用できる)。
近年、労働法において、有期雇用から無期雇用への転換や定年・再雇用についての改正がなされたが、それらの法改正のなかで、現在の正職員とパート職員の処遇の違いを法令と照らし合わせて、どのように自社内で規定し、運用していくかが今後の課題である。