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上新電機(株)
人を大切にする企業風土の中で、活躍の場を提供、積極的に正社員転換を進める
正社員転換推進措置
所在地 | 大阪府 | 業種 | 機械器具小売業 |
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従業員数 | 約5,500名 | パート労働者数 | 約2,700名 |
ポイント |
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(1)企業概要・人員構造
同社は、関西エリアを拠点に、東海エリア、関東エリアで222店舗(うち直営168店舗)を展開する家電専門店である。メーカーとの信頼関係を大切に、個々の商品の特性や価値をきちんと伝えることができ、顧客のニーズに応える生活提案型の家電専門店という拘りをもって店舗運営を行っている。
店舗の基本的な人員構成は、中型店舗では正社員が15~20名程度、パートタイム労働者である「スマイルパートナー」が20~30名程度である。
白物家電、AV機器、パソコン関係、総合レジ、バックヤード等の部門毎に正社員の主任や一般社員を配置し、在庫管理、発注、管理業務、販売等を担う。スマイルパートナーは、各部門の販売コーナーで働く場合もあるが、総合レジやバックヤードに従事することが多い。
スマイルパートナーは正社員の下という位置づけではなく、「仕事のパート分け」=役割分担をしているという意識で、「仕事のパート」を任せて、協力し合って仕事をしている。こうした意味合いと笑顔の接客を兼ねて「スマイルパートナー」と名付けている。
原則、部門の主任以上は正社員が担当しているが、現在トライアルで、スマイルパートナーの中からリーダーを選び、正社員とのパイプ役を担当させている。リーダーは、スマイルパートナーの意見・希望の吸い上げ、社員のいない時間帯には正社員の代わりを務めるなどの役割を担っている。
従業員数と雇用区分
区分 | 人数 | 定義 |
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正社員 |
約2,800名 男性 約2,450名 女性 約350名 |
管理職を目指す「ゼネラリストコース」と特定業務に専念する「エキスパートコース」がある。転勤の範囲は、全国転勤、エリア内転勤、自宅通勤の3つから選択可能。 |
キャリア プロモーター |
約70名 男性 約60名 女性 約10名 |
無期契約、パートタイム(週の所定労働時間が正社員の7割程度)、月給制、福利厚生は正社員に同じ、自宅通勤可能な範囲で異動あり。退職金・賞与あり。。 |
スマイル パートナー |
約2,700名 男性 約1,300名 女性 約1,400名 |
4か月契約、時給制。週の所定労働時間は本人の希望によるが30~40時間が多い。月間労働時間120時間超で社会保険と労働組合に加入する。該当者は1,900名。店舗間異動なし。一時金を年2回支給。 |
(2)取組の背景
20年ほど前から、徐々にパートタイム労働者が増え、正社員が受け持っていた仕事の一部をパートタイム労働者に担当させるようになっていった。しかし、当時のパートタイム労働者の給与は一律で、評価制度もなく、勤続年数によって時給が上がっていくだけだった。
パートタイム労働者を戦力化していくためには、スキルに応じた処遇を考える必要があると考えるようになり、10数年前に初めてパートタイム労働者の人事評価制度を作った。その後、モチベーションアップとスキルアップに繋げられるよう、少しずつ改定を重ねている。同時にマニュアルの整備、教育訓練制度の充実も図って、スキルアップができる環境を整えてきた。こうした流れの中で、スマイルパートナーという呼び方も従業員の公募で選定した。
(3)取組の内容
入社時研修から業務別・段階別の充実した教育訓練の実施
入社時研修はまず「基礎業務マニュアル」を使用して、1日目には、会社概要や雇用契約についての説明や同社の接客の基本として定める10の行動基準「ハートフル10」について説明し、2日目には、レジ業務の実習や個人情報保護等のコンプライアンス教育を行う。
次に、「スマイルパートナー育成速習マニュアル」を配布し、1週間で身に付けるべき基本的な事項を育成リーダー(原則は配属部門の主任(正社員))が指導し、1週間経過時点で所属長(原則店長)が評価する。「スマイルパートナー育成速習マニュアル」はレジ業務、バックヤード・売場、モバイル営業、一般事務等業務ごとにあり、例えばレジ業務では、金銭授受の基本的な流れや商品の渡し方など基本的なことから、在庫確認、商品の発注、工事の手配など、習得に時間を要する内容も記載されている。1週間で習得の程度を計り、その後はその時点での習熟度を元に、同じマニュアルを使って繰り返し継続的に教育を行っていく。
習熟度が高まってくると、レジ業務、バックヤード・売場、モバイル営業、一般事務等業務ごとに定められた、より高度な内容がまとめられている業務別マニュアルに基づいた教育を行っている。
また、段階に応じた業務別の育成シートがあり、それらに基づいて教育を行っている。育成シートはステップ1からステップ5まで育成段階が分かれている。ステップ1は「ハートフル10」が できているかや身だしなみ等、同社で働く心構えが基準となっている。ステップ2、ステップ3では業務ごとの習熟度や達成度が求められるようになり、ステップ4では、新人スマイルパート ナーの育成や土日祝日、夕方、正月、盆等会社の勤務の要求に応じられるかなども含めて評価される。これは、リーダー育成の観点から入れている項目である。ステップ5では、スマイルパートナーのリーダーとして、他のスマイルパートナーへの指示、育成指導もできるかをみている。
5つ星制度に基づく人事評価と昇給への反映
業務別の育成シートは5つ星制度と呼ぶスマイルパートナーの等級制度と連動しており、ランクアップの基準を満たすと星が増えていき、このランクに応じて基本時給が決定する。 ランクアップ基準は、下位ランクの基準も含めて総合的に判断する仕組みとなっている。例えば、1つ星は、ステップ1の評価項目23を全てクリアすることで合格、2つ星は、ステップ1 の23項目とステップ2から4の55項目中28項目クリアすることで合格するという仕組みである。
4か月を1タームとして、1か月目は教育期間、2か月目は習得期間、3か月目は習得できたかどうかを育成リーダーと共に評価し、査定、4か月目に契約更新を行う手順となっている。評価は、一次評価が育成リーダーや育成者である一般社員が行い、二次評価は店内のバランスを見ながら所属長(店長)が行う。星無しからスタートして、基準を満たせば飛び級も可能である。スマイルパートナーとして長く勤める人も多く、4つ星や5つ星のパートナーも多い。
5つ星制度の各ランク人数比(平成25年12月現在)
人数 | 割合 | |
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5つ星 | 480名 | 17.8% |
4つ星 | 470名 | 17.4% |
3つ星 | 540名 | 20.0% |
2つ星 | 500名 | 18.5% |
1つ星 | 710名 | 26.3% |
合計 | 2,700名 | 100.0% |
社員と同等のeラーニング受講
主として正社員の教育研修を目的に、一般的な業務知識のほか、商品知識などを学ぶことができる社内eラーニングの仕組みが構築されている。これらすべての講座の受講がスマイルパートナーにも認められており、勤務時間中に店舗で受講できるほか、一部の講座はスマートフォンや自宅のPCでも利用できる。
双方向に転換可能な準社員・正社員転換制度
年2回、スマイルパートナーからキャリアプロモーターと呼ばれる準社員への登用試験がある。キャリアプロモーターは月給制で、基本給は労働時間に応じて決められ、店舗間の異動はあるが、転居を伴う転勤はない。労働時間は正社員の7割程度の人が多い。福利厚生を含めた待遇は、正社員と原則同じで、労働時間が短いことに起因する賃金が少ない程度の違いである。退職金と賞与もあり、稼働時間に比例して額が決められる。
勤続年数等の要件はなく、4つ星又は5つ星のスマイルパートナーに受験資格が与えられる。キャリアプロモーター登用試験は、1次選考が一般常識、コンプライアンス等を問う筆記試験、2次選考は面接(総務部実施)である。
さらに、1年間キャリアプロモーターとして勤務すると、正社員登用試験(年2回)を受けることができる。正社員への登用は、所属長からの推薦、小論文と面接である。
登用後のポジションはその人の評価や、店舗規模等によって異なる。
スマイルパートナーからキャリアプロモーターへの転換制度は、平成11年度より導入し、累計で182名が移行している。
キャリアプロモーターから正社員に移行した人数は、平成13年以降102名である。正社員から、キャリアプロモーターにキャリア移行することも可能であり、育児や家庭の事情に対応できるため、熟練者の雇用継続にも効果がある。
スマイルパートナーにも一時金(賞与)を支給
スマイルパートナーにも年2回、一時金(賞与)を支給している。星ランクごとに単価を設定しており、6か月の算定期間の労働時間(1,000時間が上限)を乗じた額を支給する。
独自プログラムを活用し、個人の希望に配慮したシフト調整
家庭の都合などに配慮するため、事前に本人の希望を聴取して、同社が独自に開発したプログラムに基づき、月次でシフトを組んでいる。プログラムとはいえ完全なシフトはできないため、プログラムで作成されたシフトをもとに、店長や部門長が個別に調整をしている。
顧客の評価や意見箱を通じた従業員同士のコミュニケーションの活性化
平成16年から顧客の投票による「ベストスマイルコンテスト」を全店で開催している。スマイルパートナーが選ばれることも多い。
また、平成24年から取り組んでいる「お客さまの笑顔プロジェクト」の一環で、二つの意見箱を作っている。一つは「気付きカード」といい、顧客からの要望、業務の課題点を吸い上げ、社内全体で把握するシステムである。もう一つは「サンクスカード」といい、現在20店舗ほどで展開している従業員同士のコミュニケーションツールで、業務で困ったときに同僚に助けてもらった場合に感謝の気持ちを綴ったり、店長への要望を書くことができるものであり、風通しの良い職場作りに役立っている。
(4)成果と課題
充実した教育訓練とキャリアアップの仕組みにより、スマイルパートナーの定着率も良く、スマイルパートナーからキャリアプロモーターへ、キャリアプロモーターから正社員へという良い流れ が出来上がっている。正社員は基本的にはスマイルパートナー、キャリアプロモーターの内部昇格で採用することで、会社の経営方針や社風を徹底し、働きやすい職場をみんなで作っていくという職場環境を実現できている。
今までスマイルパートナーの育成は、担当部門毎に行い、各部門のスペシャリストを育成、その達成度で評価してきたが、現在、顧客サービス向上のため、幅広い業務をこなせるよう、マルチスキル化を図る方向で、育成方針や人事評価制度の見直しを行っているところである。しかし、人事評価制度の変更に伴い、評価が下がってしまう人がでてくる可能性があるため、何らかの救済措置も必要と考えている。