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B社
作業の習得度合と連動した処遇により、スキルアップとやる気の醸成を図る
所在地 | 東京都 | 業種 | 飲食料品小売業 |
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従業員数 | 約9,300名 | パート労働者数 | 約7,200名 |
ポイント |
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(1)企業概要・人員構造
同社は、明治の創業以来、首都圏に130を超える店舗を展開するスーパーマーケットチェーンとして成長してきた。「お客様第一」という創業精神の下、お客様に喜ばれる会社になるためには「働く人は会社の財産」と考え、人材育成に力を注いでいる。
標準的な店舗の人員は、店長、副店長、チーフ(各部門に1名)のマネジメント層とメンバーで構成されている。チーフ以上は基本的に正社員の職務であるが、レジ部門のチーフについては、パートタイム労働者の中から任命されている者もいる。
パートタイム労働者は、パートナー社員とアルバイトに大きく分かれ、アルバイトは大学生、高校生等の学生である。パートナー社員は、労働時間や契約期間によって、さらに2つに区分されている。
パートタイム労働者の雇用区分
雇用区分 | 人数 | 呼称 | 定義 |
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パートナー社員 | 約800名 | フレッシュ パートナー1 |
1日8時間以下、週30~35時間勤務、12か月以内契約、社保加入 |
約4,200名 | フレッシュ パートナー2 |
週3日以上、週30時間未満勤務、6か月以内契約、社保未加入 | |
アルバイト | 約1,000名 | ナイス パートナー |
大学生、専門学校生 |
約300名 | ユース パートナー |
高校生 |
(注)この他のパートタイム労働者として定年再雇用者等がいる。
(2)取組の背景
かつてのパートタイム労働者の賃金制度は、勤続に応じて昇給する年功序列型のものであった。このため、パートタイム労働者のモチベーションを高め、より戦力化していくことを狙いとして、仕事と連動した賃金制度への転換を図ってきた。
また、特にパートナー社員は組合員であることから、労働組合との協議を踏まえ、正社員との均衡を意識した取組を進めている。
(3)取組の内容
作業の習得度に基づく階層区分
職種別に求められている役割について基準値を定め、習得した役割に応じて階層区分を決定している。「キャリアパートナー」、「リーダーパートナー」、「フレッシュパートナー」の3区分があり、それぞれの定義は以下のとおりである1。
1 キャリアパートナーとリーダーパートナーは、上記表のフレッシュパートナー1に含まれる。
パートナー社員の3区分
名称 | 定義 |
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キャリアパートナー | 部門担当者として、計画から販売までの一連の管理業務を安心して任せられる者 |
リーダーパートナー | 部門担当者不在時に、担当者のアドバイスの下、他のパートナーをとりまとめ、業務を遂行できる者 |
フレッシュパートナー | 部門担当者のアシスト業務や複数部門の定型業務、限られた特定業務の管理を行える者 |
職種別の基準値は、精肉部門、青果部門など部門ごとに「作業習得度確認表」に定められている。
作業習得度確認表に基づいたトレーニングと処遇への反映
各部門別に習得すべき作業項目は、作業習得度確認表に定められている。パートナー社員は、半期で習得する作業項目をチーフと確認の上で設定し、トレーニング計画を立てる。計画に沿ってトレーニングを実施し、半期終了後、本人がセルフチェックで習得状況を判定する。その後、チーフがチェックをして相互で確認を行う。
入社すると、まず陳列やパッケージ作業等の基本作業が「必須資格」項目として定められ、それら全項目の習得完了が求められる。「必須資格」を習得すると、後述のとおり賞与の支給対象となる。
「必須資格」を全て習得すると、さらに次の段階の資格項目へと進んでいく。例えば精肉部門であれば、「豚肉手切作業」、「豚肉スライス作業」等の習得すべき作業項目(中項目)が決められており、中項目を数項目完了すると大項目の習得完了となり、本社に資格申請をすることができる。本社が確認して申請が認められ資格取得となると、資格給が支給されることになる。
目標が明確で、日々のトレーニングの結果が処遇に反映されるため、やりがいや達成感を醸成する仕組みとなっている。
仕事給を柱とした月例給与とメリハリをつけた手当
月例給与は、大きくは仕事給、地域給、諸手当に分かれている。
仕事給は、主に基本時間給(入社時時給)+特定職種給+資格給+役割給で構成されている。資格給は、キャリアパートナー、リーダーパートナー、フレッシュパートナーの区分ごとに、習得した資格の数に応じて金額が決定される。役割給は、キャリアパートナー、リーダーパートナーに対して支給されている。
特徴的な手当として、朝夜時間帯手当、日祭日勤務手当があげられる。小売業に多くみられる時間帯や曜日に応じた手当であるが、朝夜時間帯手当は午前5時~午前8時、午後6時~午後10時の勤務で+200円、日祭日勤務手当は+125円と高水準となっており、希望者が集まりやすくなっている。
正社員との均衡を意識した賞与、退職金の支給
賞与は、パートナー社員のうち「必須資格」を習得した者に対して支給される。時給や労働時間をベースにした計算式に人事考課の結果を加えて算出し、おおよその支給額は、リーダーパートナーで正社員の支給月数の約60%、キャリアパートナーで約80%と、正社員との均衡を意識した額となっている。
退職金は、勤続5年以上のパートナー社員に支給される。退職時の時給や契約時間を基にした計算式で算出され、長期勤続のリーダーパートナーやキャリアパートナーになるとかなり高水準となり、継続勤務へのインセンティブとなっている。
明確な基準による人事考課の実施
人事考課は年2回(4、10月)実施されている。評価項目は次の3分野から構成され、A(1.05)、B(1)、C(0.95)の3段階で判定する。
評価結果は賞与及び昇格(フレッシュパートナーからリーダーパートナー、リーダーパートナーからキャリアパートナー)の判定に用いられる。
人事考課項目
成績考課 | 仕事の正確さ、早さを評価 |
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執務態度考課 | 規律性、協調性、責任性、積極性等、日常業務遂行における執務態度を評価 |
数値考課 | レジ部門を除くリーダーパートナー、キャリアパートナーについてのみ担当部門の売上予算及び粗利予算の達成度を評価 |
パートナー社員間のステップアップの仕組みを明確化
フレッシュパートナーからリーダーパートナー、リーダーパートナーからキャリアパートナーへの昇格については、所属長の推薦を受け、直近2回の人事考課がA以上、一定数の資格取得の要件に当てはまる者を対象として、昇格審査を行う。審査は年2回実施され、面接及び試験を経て昇格を決定する。昇格により、担当する業務範囲の変更や資格給、役割給等処遇の変更が発生する。
充実した福利厚生制度
慶弔休暇及び育児・介護に関する休暇制度については、正社員と同等に整備されている。年次有給休暇については、時効により消滅する日数を1年につき5日、上限60日まで積み立てることができ、病気や介護、育児を事由とする休暇として利用することができるようになっている。
また、長期勤続のパートナー社員に対して、節目ごとに褒賞が支給されている。7年勤続で5,000円の商品券、15年勤続で50,000円の旅行券支給等、定着率アップに繋がる仕組みとなっている。
(4)成果と課題
資格を習得していくことで賞与支給や時給アップにつながるため、スキルの向上が図れるとともに、やりがいや達成感の醸成に繋がっている。
早朝及び夕方、日祝日の時給が高いため、人手不足になりがちな時間帯も希望者が集まりやすくなっている。働き方によっては高い時給を得ることができるため、定着率を高める効果も出ていると考えている。
課題としては、作業習得度確認表を細かい作業まで落とし込んで作成しているため、作業手順等が変わった場合のメンテナンスが追い付いていないことが挙げられる。また、作業習得度確認表について記入箇所が多いことや、チーフが部下の全パートナーの習得度合いのチェックを行うこと、半期ごとに本社が資格申請内容を確認する必要があること等、事務作業が煩雑になっており、簡素化できないか検討をしていきたいと考えている。