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A社
職務等級・職務給による均等待遇の実現、労働組合と連携した実効性のあるワークライフバランス推進
所在地 | 広島県 | 業種 | 各種商品小売業 |
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従業員数 | 約15,400名 | パート労働者数 | 約13,000名 |
ポイント |
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(1)企業概要・人員構造
同社は、大型総合ショッピングセンター及び小型食品スーパーを主力業態として、衣料品、食料品、住宅関連品等を取り扱い、中国地方、四国地方及び九州地方に約100店舗を有する。
パートタイム労働者の大半は地域の主婦や学生で、多くは店舗の売場に配置されている。このうち、勤務時間が4~5時間程度の者を「アルバイト」、6時間~正社員の所定労働時間未満の者を「パートナー社員」と位置付けている。両者の比率はおおよそ半々である。
アルバイトは、商品補充や陳列等の比較的単純な業務を、上位職からの指示・指導により行うのに対し、パートナー社員は業務上、一定の役割を担っている。通常は、まずアルバイトとして採用され、その後希望者がパートナー社員へと移行するが、職務経験等を考慮し最初からパートナー社員(初級)として採用されることもある。
平均的な店舗の形態は、店長以下、衣料品・食料品・住宅関連の各部門に次長が配置され、それぞれの部門配下にある売場ごとに主任が配置されている。店長、次長は正社員で構成されるが、主任には正社員の主任職とパートナー社員の主任職(パートナー主任)が混在して配置されている。
店舗形態
(2)取組の背景
全社員の8割以上がアルバイト、パートナー社員で占められており、その能力開発と積極活用は企業にとって非常に重要である。加えて、パートナー社員には、結婚等で一旦仕事から離れ、家庭での主婦業や子育てに専念していた女性も多く、そうした経験が重要な財産であることから、有効な経営資源とする取組が必要であった。
また、優秀な人材の採用や定着を図る上で、「やりがい」を持って働いてもらうため、モチベーション向上の工夫も必要とされていた。
(3)取組の内容
正社員水準の待遇と役職を目指せる職務給と等級制度
2002年、パートナー社員について、従来の年功制の強い人事制度から職務給制度を導入した。これは、勤続年数に関係なく、担当業務に応じて等級が決まり、等級に応じて契約時間給が決定する仕組みである。
具体的には、パートナー社員を初級、中級、上級、主任の4等級に区分し、上級では販売計画立案ができること、主任では人的マネジメントができること等、等級に応じた職務基準を設定するとともに、等級ごとに契約時間給レンジを定めた。これにより職務の大きさに応じた賃金支給が可能となった。
パートナー社員の職務等級
等級 | 職務等級基準(代表例) | 割合 |
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主任 | 人的マネジメントができること | 約1割弱 |
上級 | 販売計画が立案できること | 約2割強 |
中級 | まとまり仕事ができ助言・指導ができること | 約3割強 |
初級 | ミスなく笑顔で業務が遂行できること | 約2割強 |
パートナー社員は、各等級に求められる職務スキルを上司によりチェックされ、要件を満たしたと認められれば上位等級に昇格する。ただし、主任については、①社内資格である販売員(上級)の研修を受講し試験に合格すること、②同じく社内資格である主任者研修を受講し試験に合格すること、③店長推薦があることを要件として、実際に主任職に配置されることで昇格となる。販売員(上級)や主任者の研修・試験には、受講・受験に等級等の条件を設けておらず、販売員(上級)は試験に合格すれば手当支給対象とすることで、昇格意欲を後押ししている。
パートナー主任には、正社員水準の賃金・賞与が支給され、売場主任の職を任せられる。正社員との違いは、労働時間が短いことと転勤がないことである。意欲・能力のあるパートナー社員は、正社員と同じ研修を受け、正社員並みのマネジメントスキルを身に付け、正社員と同様に売場主任に就くことができる。実際に、現在220名の「パートナー主任」が活躍している。
労働組合と連携したワーク・ライフ・バランス推進
同社では、子が3歳に達する月の末日まで取得できる育児休業制度、子が小学校3学年度末まで取得できる育児短時間勤務制度、1年間取得できる介護休業制度、介護短時間勤務制度等、法を上回る両立支援策を制度化している。
両立支援制度の実効性を上げるため、労働組合がその普及・促進を担当している。労働組合は、積極的な制度周知活動のほか、育児休業者に情報誌の送付や、育児休業者・育児短時間勤務利用者向けにフォーラムの開催等を行う。フォーラムでは会社の人事部担当者が相談対応する等の連携により、労使で積極的な両立支援を展開している。
このように、制度を会社が策定し、労働組合がその実効性を上げていくという連携により、特に育児休業取得実績においては、その約半数がパートナー社員で占められている。これらの取組により、ファミリーフレンドリー企業表彰も受賞している。
2007年には、パートナー社員の半数近い約2,600人が労働組合に加入し、会社側は職場環境改善による定着率向上を目指し、労働組合側は待遇改善の強化を図れる体制となった。
提案制度と事例発表の場を通じ意欲向上とやりがいを生み出す
「職場をよりよくしたい」という意欲的な社員の声を取り上げるため、提案制度が実施されている。毎月、改善提案を募り、上長の一次審査の後、提案委員会にかけられ、優秀な提案は金賞・銀賞等入賞対象とし、入賞した提案者には金一封が贈られる。
パートナー社員からは、レジ袋のサイズを今よりも使いやすいものに改善する等、お客様目線に立った提案が多くなされてきた。有用な提案は、全店舗で実施されることになるため、意欲向上につながっている。
また、品揃えの工夫、レシピ提案等、職場の仲間と取り組んだ事例発表の場が設けられている。各店舗から代表グループが選出され、ブロックごとの予選を通過したグループの中から優勝グループが決定される。発表者にとっては、仲間との一体感や、仕事をする上のやりがいを実感する機会となっている。
スキルアップを支援する社内研修制度とインセンティブ給の支給
自己啓発や向上心を後押しするため、無料で、プレゼンテーションやビジネスマナー、エクセル操作等の社内講座を受講することができる。
その他、衣料品部門においては、販売員の技能向上を図るため、「ベビーアドバイザー」等、販売商品ごと・カテゴリーごとの専門知識を持つ者を認定する「アドバイザー制度」がある。該当する社内研修を受講し社内試験に合格すると、当該商品のアドバイザーとなり、手当が支給される。
同様に、生鮮部門(鮮魚・精肉・惣菜)においては、社内研修を受講し社内試験にパスすると、調理・加工の技能レベルに応じて初級から上級までの「技能ライセンス」が発行され、ライセンス手当が支給される。ライセンスに応じたインセンティブ給も用意されている。
社内コンテストを開催し、社員の成長機会を創出
成長の場として、各種の社内コンテストも開催している。食品レジの速さや正確性等を競う「チェッカーコンテスト」、鮮魚・精肉・惣菜部門の盛り付けや出来栄え等の商品化技術を競う「生鮮技能コンテスト」等が、定期的に開催されている。これらの入賞者には、商品券が支給される。
(4)成果と課題
職務等級・職務給の制度は導入より10年が経過し、制度導入時に設けていた部門間の時間給差が、最低賃金上昇に対応する中でほとんどなくなる等、制度に疲弊も見えている。
また、賞与については、パートナー主任は正社員に準じた支給であるのに対し、初級・中級・上級は一律の支給率となっている。上位等級を目指したスキル向上・職責拡大を図ることを後押しするため、上位級に昇格すれば賞与の支給率も大きくなる仕組みも検討している。
一方、店舗の大型化に伴い、売場規模が大きくなり主任の職務難易度が上がっているため、正社員が主任になる例が増え、部門によってはパートナー主任の登用機会が少なくなっている。このため、主任の一つ下の職責を開発し、パートナー社員をそこに配置する等の工夫により、職場間是正を図っていく必要があると考えている。
さらに、優秀な人材の確保・定着のため、正社員登用のできる人材育成の仕組みづくりを模索している。現場レベルでどのような育成をすれば正社員登用できる人材開発が可能か、より実践的なOJTのあり方について、店舗責任者と協議を進めているところである。
また、アルバイト社員のモチベーション向上のために、将来的には、アルバイト社員へも評価制度導入を検討しており、現在5店舗で先行的に評価制度を実施し、制度導入への布石づくりをしている。