ここから本文です
三州製菓(株)
自律型人材を育む活動で能力開発を推進するとともに、ワーク・ライフ・バランスに配慮した仕組みで、働き続けやすい環境を提供
正社員転換推進措置
所在地 | 埼玉県 | 業種 | 製造業 |
---|---|---|---|
従業員数 | 249名 | パート労働者数 | 186名 |
事業概要 | 食料品製造業 |
ポイント |
---|
|
1. 企業概要・人員構造
昭和25年設立の同社は、創業当時はスーパーや食料品店等の量販店向けに安価な菓子の製造を中心に事業を行っていた。昭和63年に現社長が就任してのちは、大手テーマパークや高級菓子店、百貨店向けのOEM1の生産に特化し、売上を大きく伸ばしている。
「すべてのものを真に活かす」という企業理念の下、一人ひとりが心から納得できる仕事に取り組み、互いに励まし合いながら活き活きと働ける職場を作ることが大切と考え、様々な取組を行っている。その取組が評価され、平成25年度「子育てサポート企業」として埼玉県労働局の認定や、平成25年経済産業省選定の「ダイバーシティ経営企業100選」への選出、さらにその中から25社だけが選ばれるホワイト企業への選出、平成25年埼玉労働局「均等・両立推進企業表彰」均等推進企業部門労働局長優良賞受賞、平成26年経済産業省「APEC女性活躍推進企業50選」事業における日本選出の5社のうちの1社としての選定等、数多くの受賞歴がある。
同社では、パートナー(パートタイム労働者)が従業員の約75%を占め、そのうち女性は9割に上っている。主に製造現場での職務に従事しているが、研究開発や品質管理の仕事に従事しているパートナーもいる。製造での主な業務は、製造ラインでの材料の投入や、でき上がった商品の選別、商品の詰め合わせ、計量等を担当している。原則として担当する業務は決まっているものの、同じ業務を長時間行うと集中力が途切れてくること等から、商品の選別から箱詰め作業に担当を移るなど、1日の中で業務の変更も行っている。
パートナーの契約は1年更新で、労働時間のパターンは午前の4時間、午後の4時間、7.5時間の3つがあり、4時間勤務を選択する人が多数を占める。
1 他社ブランド商品の製造。
2. 取組の背景
埼玉県の教育委員長を務めたこともある社長は、この時の経験から、成績優秀でリーダーシップを発揮している生徒の多くは女性であるが、社会に出ると男性の補佐に回る事例が多いことに疑問を感じていた。社内でも女性社員の潜在能力の高さを実感しており、会社としていかにその能力を引き出していくかに精力をそそぐこととなった。
優秀なパートナーが多く、長く勤務して欲しいと考えているが、出産や育児、家庭の事情等により仕事を続けたくても続けられないケースも多く、ワーク・ライフ・バランスに配慮した仕組みを構築してサポートを行っている。
また、昨今食品業界では、異物混入等の品質上の問題により、企業としての存続が危ぶまれる事態が発生している。より一層の品質の向上に向けて、現場で働くパートナーの意識を高め、戦力化していくための取組が重要となっている。
3. 取組の内容
採用時のテストで適所に配属
応募者の適性を把握することを目的に、採用時に簡単でユニークなテストを行っている。具体的には、動体視力を測ったり、トランプを使って手先の器用さを見るなどのテストで、ラインで流れる製品の選別や製品捌き、包装等の適性を判断して、配属先を決めている。また、乗り物酔いをしやすい人は長時間ラインの流れを見ていると気分が悪くなることが多いため、配属に当たりこうした点も細かく配慮している。
役割に応じた手当の支給
パートナーの中からリーダー及び班長を選任している。リーダーは各製造ラインに1名で、ラインのパートナーのとりまとめを行う。班長はラインを横断した立場にあり、全体の生産計画をラインごとに展開したり、人員の割り振り等の役割を担っている。
リーダーや班長は、パートナーの互選や上司からの推薦で選任され、試験等は設けられていない。選任の時期も随時となっている。
リーダーには月額2千円~5千円のリーダー手当が支給され、班長には月額5千円~1万円の班長手当が支給される。金額は、リーダー、班長として実働している時間数に応じて決められ、年2回見直しが行われている。
決算賞与・大入り袋の支給
パートナーに対しても、会社の業績に応じて決算賞与及び大入り袋が支給されている。決算賞与は年1回、数千円~数万円、大入り袋は、月次の経常利益が一定水準を超えると千円~1万円が支給される。このため、後述の月次決算を報告する経営会議へのパートナーの関心もおのずと高くなっている。
節目ごとの教育
入社したパートナーには、本社総務部が随時入社時研修を行っている。時間は1時間で、労働条件に加え会社の仕組みや経営方針、企業理念等を説明している。
入社後2か月間の試用期間中は、先輩パートナーや正社員がマンツーマンでOJTを行っている。またこの期間は、後述の委員会の中の「シスター&ブラザー委員会」が、新人が早く職場になじめるよう、相談会やアンケートの実施等の活動を行ってサポートしている。
その他、外部講師によるTQC2やHACCP3の研修も随時実施している。
正社員転換の推進
在籍する女性正社員の30%はパートナーからの転換者となっている。本人の希望もしくは上司の推薦で候補者が選ばれ、事業計画書の理解度や作業日報を元にした作業能力、協調性等を勘案して役員が選考を行い、転換者を決定している。
創業以来、パートナーから正社員に転換したのは50名ほどで、2014年度は4名となっている。正社員に転換したのち課長職に任命されたのは2名である。
正社員に転換した者に対し、随時、評価やマネジメントに関する研修を実施して、管理者としてのスキルを身につける機会を設けている。
積極的な情報開示
毎年、全従業員にシステム手帳形式の社員手帳を配布している。約200ページに及ぶ手帳の内容は、経営理念、事業計画、経営数値目標、行動指針、会社規定等、会社の情報を公開するだけでなく、従業員の名簿に加え誕生日や長所、特技の記載もあり、会社への関心を高めると同時に、従業員間のコミュニケーション活性化のツールとしても役立っている。
毎月1回、月次決算発表を行い、経営情報を公開している。決算の結果によって大入り袋が支給され、社債(少人数私募債)を買っているパートナーもいることから、業績についての関心も高く、経営に対する参画意識を醸成する効果をあげている。
ボトムアップ活動への参加
パートナーを含む全従業員が参加するボトムアップ活動として、部署を横断した13の委員会が運営されている。参加は任意で、年1回メンバーを募集し、一人が2つ以上の委員会に参加することも可能になっている。
例えば「男女共同参画推進委員会」では、女性が活き活きと働ける職場環境作りとワーク・ライフ・バランスの推進を図るための勉強会を行ったり、残業削減等の呼びかけを行うなど、継続的に周知啓発を行っている。また、「環境整備委員会」は工場内の整理・整頓・清潔等を向上させる活動を行い、委員会で立案されたルールに基づき、社長以下全員が朝15分間の清掃に取り組んでいる。
委員会で活動する時間は労働時間として取り扱われ、パートナーも積極的に参加しており、自主的に課題に取り組む力を育んでいる。
テーマを決め研究成果を発表
全従業員が毎年一人1つのテーマを決めて研究し、その結果を研究発表会で発表している。テーマは自主的に決めることができ、業務に直接関係ないものでも構わない。これまでパートナーが研究発表した事例として、せんべいをライン上にて手作業で裏返す工程を、ラインの途中に段差を設けることで自動化する方法を提案し、金賞を受賞している。
発表の場が与えられることで発表者の励みにもなり、テーマを考え掘り下げて研究することで、自律的な考え方や習慣が身に付き、能力開発にもつながっている。
互選による表彰制度
縁の下の力持ちを評価しようと、毎月最も良い働きをした人を従業員が互選で選ぶ月間優秀従業員賞という表彰制度がある。社員手帳に投票用紙が挟まれており、投票すると1回千円の図書券が支給される。役員の選考を経て月間優秀従業員に選ばれると、朝礼で表彰され賞金が授与される。受賞者の半数以上はパートナーが占めている。さらに、月間優秀従業員の中から年間優秀従業員が選ばれ、年1回の事業計画発表会の場で表彰を行っている。
そのほかに、朝礼当番の際、ほかの従業員がした善いことを発表する一日一善運動という仕組みがあり、発表された内容はすべてグループウエアで発信して全社で共有している。集まった事例の中から毎月、一善大賞を選び賞金を授与している。互いの長所を見つけて評価し合うことで、やる気の向上に寄与している。
休みやすい仕組みの構築
従業員の休みが重なった際に職務を共有する必要があったことから、一人の従業員が色々な仕事をこなすことができる「一人三役運動」を進めている。具体的には、主に担当する業務以外に二つの業務のスキルを磨く。製造の業務であれば、二役目は同じ製造の中で隣のラインの業務、三役目は包装や事務等領域の異なるスキルを身につける。
全部署で部長以下全員が対象となっており、毎年各従業員のスキルをレベル分けして、業務の習得範囲を一覧表(スキルマップ)で掲示するため、担当者が休んだ際に代行できる従業員がすぐに分かるようになっている。この仕組みにより、休暇が取りやすく、パートナーの年次有給休暇の取得率はほぼ100%となっている。また仕事を教え合うことによりコミュニケーションの活性化にも役立っている。
一人三役運動の技能ランク表
ランク | 職位 | 基準内容 |
---|---|---|
1 | 新人 | 研修・教育段階にある |
2 | 見習 | 指導下にあり、部分的に業務を行える |
3 | 補佐 | 業務のほとんどを習得して、一時的に代行できる |
4 | 担当 | 責任を持って、業務を遂行できる |
5 | 玄人 | 落度・難点なく、つねに円滑に業務を遂行できる |
6 | 達人 | つねに手本となる水準の熟練度で仕事ができる |
課ごとのスキルマップ(例)
揚げライン | 餅仕込み | 生地乾燥 | 味付け全般 | 生地準備 | |
---|---|---|---|---|---|
Aさん | 2 | 2 | 4 | 4 | |
Bさん | 3 | 3 | 4 | 3 | 2 |
Cさん | 4 | 3 | 2 | 1 |
自己啓発支援
業務に関連する資格の取得や研修の受講については、必要な費用を会社が負担している。
正社員と同等の福利厚生制度
忌引き休暇等法定外の休暇も正社員と同じ日数取得でき、すべて有給となっている。また金額は正社員と異なるが、慶弔金も支給されている。親睦会(共済会)も加入対象となっており、社員旅行や親睦行事等も正社員と同条件で参加できる。
自社製品の割引購入や、社員食堂の半額補助も、社員と同様に適用対象となっている。また誕生日を迎えた従業員には、会社から誕生ケーキが贈られている。
2 全社的品質管理。
3 食品を製造する際に工程上の危害を起こす要因を分析し、それを最も効率よく管理できる部分を連続的に管理して安全を確保する管理手法。
4. 成果と課題
パートナーを中心とする女性活用への積極的な取組が評価され、前述のとおり様々な賞を受賞することとなった。
積極的に会社の情報を付与したり、様々な委員会活動に社員と一緒になって取り組んでもらうことによって、経営への参画意識や帰属意識が高まっていると感じている。「一人三役運動」により休みやすい環境が整備されていることも奏功し、パートナーの平均勤続年数は15年と、正社員の10年よりも長くなっている。
一方で、会社としてはワーク・ライフ・バランスを意識した仕組みや環境を整備して、どんどん活用して働き続けて欲しいという思いを持っているものの、三世代同居の家庭も多く、女性が働くことへの親世代の理解がまだ十分ではない場合もあり、頭を悩ませているところである。