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万協製薬株式会社
平成27年度「パートタイム労働者活躍推進企業表彰」
奨励賞(雇用均等・児童家庭局長奨励賞)
業務を細分化した評価(モジュール評価)とジョブローテーションにより、パートタイム労働者のスキルアップ・多能工化を実現、透明性ある評価でスキルに見合う給与を支給
正社員転換推進措置
所在地 | 三重県 | 業種 | 製造業 |
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従業員数 | 127名 | パート労働者数 | 9名 |
事業概要 | 医薬品(外用薬)製造受託、製剤・包装受託、医薬品原料調達サービス |
ポイント |
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審査委員はここを評価
新たな業務に取り組むことが評価につながる「モジュール評価」並びに社内コミュニケーション円滑化を進めた「プチコミファミリー制度」の導入が、パートタイム労働者も含め、多様な働き方を支援する結果を生んでいます。
1. 企業概要・人員構造
1960年にスキンケア外用薬の製造工場として神戸市に設立。1995年の阪神・淡路大震災によって神戸市内の本社工場が全壊し、1996年に三重県多気郡の現在地に本社工場を移転した。以来、「人に必要とされる会社をつくる」という経営理念の下、スキンケア商品(医薬品、医薬部外品)の受託製造に特化し、外用薬の設備導入並びに工場増設を続け、2015年10月現在、4工場を有する。
同社の雇用形態は、正社員・短時間勤務正社員(月給制)、フルタイムの契約社員(時給制)、パートタイムの契約社員(時給制)、派遣社員、嘱託社員の6つからなり、新卒で正社員を、中途で契約社員を採用している。派遣社員以外の従業員は全て無期雇用である。
2015年10月現在、正社員・時短正社員が89名、フルタイムの契約社員が14名、パートタイムの契約社員が8名、派遣社員15名、嘱託社員1名である。うち、障害者5名(正社員3名、契約社員2名)である。正社員の短時間勤務制度は2009年より導入しており、2015年10月現在、3名が短時間勤務制度を利用している。
雇用形態による業務内容の差はなく、給与が時給である以外は正社員と同等の処遇としており、医薬品・医薬部外品の品質管理や開発、生産管理、充填、包装、総務等を担当する(ジョブローテーションあり、後述)。また、役職等級も正社員と同等で(派遣社員のみ役職なし)、各種手当、慶弔金、賞与、退職金の支給対象となり、支給基準も正社員と同一である。
同社では一部のエリート人材だけを選抜するのではなく、全員が働きながら様々なスキルを身につけ、多様なスキルを身につけた者を評価するモジュール評価(後述)を導入している。また短時間勤務制度を整備しているが、育児や介護に限らず個別の事情であっても社長の了承が得られれば制度を利用可能としているため、育児や介護、障害や疾病等の事情を抱えた者でも高い意欲で働き続けることが可能となっている。
後述する各種取組が評価され、2009年度「日本経営品質賞」、2011年「第9回日本環境経営大賞」、平成24年度「みえの防災大賞奨励賞」、2014年経済産業省「がんばる中小企業・小規模事業者300社」、2014年「子どもと家族・若者応援団表彰」等を受賞した。
2. 取組の背景とねらい
阪神・淡路大震災での神戸本社工場全壊後、従業員全員を雇用し続けることが難しかったため、社長を含めた従業員数名で会社再建に臨んだものの、資金難から正社員雇用はできずパートタイムの契約社員を募集した。雇用形態による差別をなくしている理由として、阪神・淡路大震災時に従業員を雇用し続けられなかったことに対する、経営陣の強い思いが背景にある。会社再建時、「従業員が辞めない会社」とすることを目指し、「従業員が会社にとって最も重要な財産である」ということを同社のミッションとした。
このミッションに基づき、ジョブローテーションやモジュール評価をはじめ、熟練者でなくとも利用しやすい最新機器の導入、「社長直行便」と称する改善提案制度等を導入し、パートタイムの契約社員が自信をもって働ける仕組みを積極的に取り入れた。
またダイバーシティ推進にも取り組んでおり、様々な事情を抱えながら生活している者が、個々の能力を最大限発揮して働けるような仕組み・評価方法・人材育成方法を導入することを目指している。
3. パートタイム労働者の活躍推進のための具体的な取組
モジュール評価により、スキルアップを賃金・賞与に反映
各業務をモジュール化(細分化)し、各モジュールに対応する習熟マニュアルを作成している。習熟マニュアルは従業員が工夫して独自に作成したもので、他部署から異動してきた者が、このマニュアルを基に業務を学び、OJTの指導を受ける際に役立つものになっている。
同社は三重県移転当初、資金不足により未経験のパートタイムの契約社員しか雇用できなかったが、彼らに長く働いてもらうための工夫としてモジュール評価を導入した。未経験であっても業務をモジュール化すれば役割が明確となり、業務遂行が可能となる。モジュール評価では、業務の達成度だけではなく、新たな業務に取り組むこと自体が評価されるため、未経験のパートタイムの契約社員であっても評価を上乗せすることが可能である。
各モジュールは技術や能力の指標となっており、難易度別にABCのランクに分かれている。モジュールの習熟度は、上長が従業員個人の教育訓練記録書に記載し、能力評価として昇給や賞与に反映しているが、これについても雇用形態による差はない。
同社ではモジュール項目の取得点数等により、1級~10級の検定級を設定している。級を設定することで、個人の成長を数値化できる仕組みとしている。
2015年度より、より高い級の取得を目指し、職場内での勉強会・講習会を実施しているが、これは勤務扱いとなり雇用形態に関わらず受講できる。この勉強会・講習会の中では従業員同士が互いに教え合うことにしているが、その仕組みによって能力向上、品質向上、作業改善につなげる狙いがある。
モジュール評価・ABC評価(イメージ)
教育訓練として「バンキョー読書感想文活動」を実施するほか、放送大学学費を半額負担
パートタイムの契約社員を含むリーダー以上の役職者については、教育訓練として、定期的に従業員研修会を実施している。全従業員に対しては、各部署で行われる毎日の朝礼をはじめとする各種ミーティングや、月1回の全社研修会を開催している。また、会社が所有する膨大な書籍類、CD、DVD等の音源・映像ファイルを全従業員に公開して、学びの場を設けている。
同社では、「最も大切な研修行為」として読書を奨励し、3か月に1度「バンキョー読書感想文活動」を実施している。会社から配布された書籍を読み、感想文を提出すれば報奨金を支給する仕組みで、感想文は冊子にまとめ配布する。これは、仕事以外で互いを理解するための有効なツールとなっている。2003年より開始し、2015年10月までに51回以上の実績を重ねている。
更に、同社ミッションである「バンキョウフィロソフィー」を題材にした職場体験談作文を年に1回募集している。応募するだけで報奨金が支給され、中でも優秀作品は成果発表会の場で表彰対象となっている。
ほかにも、本人の希望があれば雇用形態に関わらず、学費の半額を会社が負担して放送大学で学ばせる。
半期に1度の個人面談で、キャリアアッププランを策定
雇用形態に関わらず半期に1度、個人面談を実施しているが、上長による面談と、経営幹部を交えた最終面談の2段階で面談を行うこととしている。上長との個人面談では、モジュール評価結果を本人に伝えて、年間のキャリアアッププランを策定する。キャリアアッププラン策定時には、本人にモジュール評価の点数をフィードバックし、進捗状況と課題を明確にすることで、個人の成長を支援している。
その後の経営幹部を交えた最終面談では、配置転換や転属についても話し合う。
キャリアアッププラン(イメージ)
雇用区分に関係ない昇級制度の導入
同社の職能等級はプチリーダー、サブリーダー、リーダー、課長、部長と昇進する仕組みで、雇用形態に関わらず登用されるため、契約社員であっても部長まで昇進することができる。なお、リーダーまでは自薦又は他薦によって登用される。
プチリーダーとは、従業員(特に女性従業員)にリーダー登用を打診した際、「責任が重すぎるから嫌だ」「自分には無理だ」と断られるケースが多く、役職のハードルを低くするために2006年より導入した役職で、従業員3名程度の小グループを管理する。このように段階的に責任を大きくすることによって、エンパワーメントやリーダーシップをより発揮しやすい環境とした。
雇用形態に関わらず役職に登用しており、2015年10月現在、パートタイムの契約社員が総務課リーダー及び包装課サブリーダーを務めている。
職能資格等級の仕組み
本人の希望があれば、社内審査を経て正社員登用
フルタイム・パートタイムの契約社員を対象に、本人の希望があれば、実績と評価を勘案して、正社員又は短時間勤務正社員に転換できる制度がある。2年の勤務経験を経て契約社員から正社員に転換するケースが多い。また、正社員からフルタイム・パートタイムの契約社員に転換することも可能である。
また、派遣社員で優秀な人材については、派遣会社の了承が得られれば、派遣会社に紹介手数料を支払い、契約社員として直接雇用する。
パート・契約・派遣からの正社員転換人数、男女比
2005年 | 2名 | 2011年 | 7名 |
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2006年 | 3名 | 2012年 | 4名 |
2007年 | 21名 | 2013年 | 2名 |
2008年 | 1名 | 2014年 | 7名 |
2009年 | 0名 | 2015年 | 4名 |
2010年 | 5名 |
合計56名(男31名、女25名)
ヒューマンエラー報告書提出で、500円を支給
ミスがあった場合は、そのミスを責めるのではなく、一つの対応すべきヒューマンエラー要因として損失金額と改善策を考えさせ、報告させるようにしている。
報告書を提出すると、エラーを未然に防ぐことができたという意味で、1件500円を支給する仕組みを整備している。これは、エラーを隠さず報告するための体制づくりと、エラーから学ぶ改善策を立てることこそが重要と捉えているためであり、2012年は20件(パートタイムの契約社員からは3件)、2013年は18件(パートタイムの契約社員からは0件)、2014年は16件(パートタイムの契約社員からは0件)の報告があった。
ヒューマンエラー報告書(イメージ)
提案書や表彰制度では、全て報奨金を支給
同社では、全従業員が参加する「社長直行便」と称する改善提案書や、「ありがとう情報カード」と称する従業員同士の感謝伝達ツールを、雇用形態に関わらず随時提出させている。これらの中で、従業員投票によって選ばれた優秀なものは、成果発表会(後述)での表彰や報奨金の支給対象になる。
社長直行便が提出されると、社長自らが1週間以内に全て回答している。最低月1件は、パートタイムの契約社員を含む全従業員に改善提案を提出するよう指導を行っており、提出することで500円を支給している。パートタイムの契約社員から提案された整理棚のインデックス位置の改善が採用され、1,000円の報奨金を支給した事例もある。
提出された改善提案と感謝カードは社内の掲示板で公開・周知している。
「成果発表会」の場で、各種表彰を実施
毎年1回、全従業員が参加する成果発表会というイベントを設け、会社の経営品質向上活動の取組と社内成果を発表し、共有している。社内アンケートも発表するほか、ありがとう情報カード賞、フィロソフィー職場体験談賞、改善提案賞、年間優秀社員賞、永年勤続賞等の各種表彰も実施する。これらの表彰も雇用形態に関わらず全従業員が表彰対象となり、全ての受賞者に報奨金を支給している。
成果発表会は顧客企業や従業員の家族を招待するだけでなく、一般公開もしている。
成果発表会で発表している、従業員能力開発のための各種活動(★は報奨金支給)
内容 | 頻度 | 目的 |
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従業員満足度調査 | 年1回 | 経営戦略の理解、経営姿勢、職場環境、人事評価、仕事への意欲、賃金、福利厚生、上司評価 |
バンキョウキャリアアッププラン | 年2回 | モジュールの達成度、各人の目標と達成度、コミュニケーション、リーダーシップ |
気づきのある読書感想文★ | 年4回 | 自分への理解、他者との共感、自己の成長 |
バンキョウフィロソフィーに基づく職場体験談作文★ | 年1回 | 自身の仕事への評価、会社での成長 |
社員誕生会 | 年12回 | 家族への感謝、自分の成長の確認、経営幹部とのコミュニケーション |
プチコミファミリー制度(活動費用を企業が負担) | 年3回 | 他部署の理解、社内ネットワークの充実、提案制度、ボランティア活動 |
社長直行! 万協をもっと、良くしよう提案書★ | 随時 | 仕事の改善、自分の成長の確認、会社への貢献、仕事への意欲 |
ありがとう情報カード★ | 随時 | 仲間への感謝、仕事の共有、会社での成長、自分への理解、他者への共感 |
従業員全体集会でのアンケート | 年12回 | 経営戦略の理解、自己の成長、仕事への意欲、コミュニケーション |
各種セミナーでのアンケート | 随時 | 自己の成長、集団力の育成 |
社内コミュニケーション円滑化のために、プチコミファミリー制度を導入
2007年より、全従業員を対象とした「プチコミファミリー制度」という仕組みを導入している。勤続年数・所属・年齢の違う従業員同士4~5名の擬似家族グループを作り、1年を通して食事会や共同改善提案提出、ボランティア活動、社員旅行の活動を行い、活動の成果を掲示板に随時掲示している。メンバーは毎年入れ替わる。
職場の上司に相談しにくいことでも相談できるように、勤続年数の長い者が勤続年数の短い者の面倒を見る制度でもある。この制度では、1年に3~4回の食事会費用を支給(1人3,000円)している。
福利厚生として、社員旅行もプチコミファミリーごとに実行させており、費用として50,000円(国内)又は100,000円(海外)を支給し、併せて1週間の有給休暇を付与している。社員旅行の計画は、目的地から日程まで全てをプチコミファミリーで決定させ、社長にプレゼンテーションをする。社長が認めたプチコミファミリーから社員旅行をし、その結果も、それぞれが成果発表会で公表している。
育児支援のために、3年間の育児休業や、3日間の配偶者出産時休暇を整備
2004年より、育児休業制度等の仕事と子育ての両立支援について、法を上回る規定を設け、育児休業は子どもが3歳になるまで全従業員が取得可能となっている。また出産時には男性従業員に有給の配偶者出産時休暇を3日間付与している。配偶者出産時休暇は、対象者14名中14名が取得している。更に2009年より、子どもが小学校を卒業するまでは短時間でも正社員として働ける、育児短時間勤務制度も整備した。育児短時間勤務制度は、2015年10月までに5名が利用した実績があり、うち1名は男性従業員、女性4名のうち3名がパートタイムの契約社員から転換した者であった。
2014年3月には育児と仕事の両立についての意見交換を目的とした「万協母の輪会」を発足した。同年5月に「万協パパママ会」と改め、ここでは先輩パパママから後輩パパママへのアドバイスがなされ、育児支援制度利用後の職場復帰の手助けにもなっている。その他にも、要らなくなったおもちゃやサイズアウトした洋服を会社へ持ち合う「万協ベビー服リサイクル」という取組等も実施している。この取組についても全従業員が参加可能である。
社内情報共有のために、社内イントラネットと掲示板の導入
社内イントラネットを活用して、従業員に日報を記載させている。内容を毎日社長がチェックし、必要な場合はメッセージを送っている。
また社内に「バンキョウ コミュニケーションボード」という掲示板を設け、従業員と経営幹部とのコミュニケーションの成果を随時掲示している。これは仕事の改善のみならず、会社のあらゆる情報を公開することで、全従業員が経営品質の改善に直接参加することを目的としている。
4. 取組に当たって工夫した点・苦労した点
2007年の離職率は約18%で、特に若年層の人員確保に苦労していた。退職者にアンケートを実施したところ、社内に相談できる者がいないことが退職の理由として多く挙げられた。このアンケート結果を受け、様々な部署や性別・年齢の相談者を設けるプチコミファミリー制度を設け、業務以外の内容であっても相談できる仕組みを作った。
組織内の協働については全体集会、リーダー会議、従業員研修会等を通じて行われているが、リーダーより下の従業員の意識を高めることが今後の課題である。
5. 取組の効果と今後の見通し
ジョブローテーションを通じて従業員に様々な部署の業務を担当させることで、育児や介護等の事情により急な欠勤があっても、周囲の人間が業務を高いレベルでフォローすることができ、多様な働き方を支えることが可能となった。
モジュール評価を導入したことにより従業員の意欲向上や業務に対する自信を高める効果が生まれ、パートタイムの契約社員が主体的に業務に取り組むようになり業績が向上し、現在の企業規模に至っている。
改善提案書の「社長直行便」では、経営者と従業員が個別に一つの案件について話し合う場が生まれ、相互理解が深まった。
プチコミファミリー制度導入後は、部署外の者にも自然と声をかけられる関係性が築かれ、困った時に助け合い相談できる風土が醸成された。2007年の離職率は約18%であったが、2014年の離職率は6%台に低下した。
2004年、育児休業から復職する時期を自ら決められるようにした結果、妊娠・出産によって退職する女性従業員は0名になった。併せて従業員全員に個別のキャリアプランを設定し育成を行った結果、2009年には管理職のうち4割が女性となった。
今後もアンケートや面談等を通じて従業員の声を聞き、より透明性で公平性のある評価を整備し、従業員一人ひとりが活躍できる仕組みを導入したい。
従業員の声パートタイムの契約社員から正社員転換を経て、再びパート勤務。経験を若手に伝えたい
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