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株式会社古田土経営

平成27年度パートタイム労働者活躍推進企業表彰受賞企業事例集より

平成27年度「パートタイム労働者活躍推進企業表彰」
優良賞(雇用均等・児童家庭局長優良賞)

売上目標設定とスキル習得状況の可視化により、パートタイム労働者のスキルアップを推進

2.賃金・労働時間
3.教育訓練等の能力開発
4.人事評価
5.キャリアアップ・
正社員転換推進措置
6.福利厚生・安全衛生
8.職場のコミュニケーション等
所在地 東京都 業種 学術研究・専門技術サービス業
従業員数 157名 パート労働者数 29名
事業概要 税理士、社会保険労務士、コンサルティング業務
ポイント
  • 社内作業を金額化し、売上目標を設定することで業務の成果を可視化。
  • 定性面、スキル面の評価を項目別に実施し、面接シートとステップアップカードでキャリアアップの状況を共有。
  • 勤務時間に制限のある正社員区分を設け、パートタイム勤務から段階的に正社員へ転換できる仕組みを整備。
  • 社員の業務を切り分け、パートタイム労働者が担当することで、業務の効率化と自社サービスの明確化に成功。

審査委員はここを評価

「パンジーさん」と呼ばれているパートタイム労働者に対し、必要な教育(会社理念・価値観等)・研修(勉強会)及び面談をしたうえで、各人のキャリアアップ状況を可視化している点が素晴らしいです。

1. 企業概要・人員構造

同社は古田土会計事務所として1983年に創業。1997年に株式会社古田土経営として法人登記した。「日本中の中小企業を元気にすること」を夢、ビジョンに掲げ、中小企業約2,000社に対し、主力商品・サービスである「経営計画書」の作成支援及び「月次決算書」の作成のほか、決算前検討会の開催、労務サポートサービス等、会計と人事労務に係る様々なコンサルティングサービスを提供している。

正社員には、所定労働時間8時45分から17時00分の正社員Aコースと、朝の出社時間を考慮し残業を制限した正社員Bコースという2つの区分がある。パート社員にもフルタイム勤務(勤務時間:9時00分から17時00分)とパートタイム勤務(勤務時間:週20時間以内)の2区分が存在し、「パンジーさん」という愛称の下、主に内勤業務を担当している。

2. 取組の背景とねらい

同社では、1990年当時、事務所と顧客企業のつながりよりも社員個人と顧客企業とのつながりが強く、提供サービスの内容や質において社員個人の力量に依る部分が大きいために、担当社員が退職すると顧客企業も事務所から離れてしまうというような業界の慣習から脱することを大きな課題としていた。しかし、社員の職務の分析を行ったところ、専門的な資格や能力を問わない業務(事務作業等)がその大半を占めていたため、そのような業務を他に任せ社員の業務を専門的な業務に集中することで、業務効率の大幅な改善と収入の拡大が見込めると判断した。そのため、パート社員を雇用し事務的業務を担ってもらうという社内体制の改革に踏み切った。

パート社員の雇用に当たっては、同社の経営計画書に「パート社員に関する方針」を記載している。その中には、「時給は実力に応じて改定する」、「優秀な人は正社員Bコースに登用する」、「ステップアップ制度(詳細は後述)」等、パート社員に関する指針が明記されており、指針に沿った運用を進めることで、全社員がパート社員のあるべき姿を認識できるようになっている。

3. パートタイム労働者の活躍推進のための具体的な取組

社内作業の金額化によりパート社員も売上目標を設定

パート社員も正社員同様に年1回、12月に次期1年間の売上目標を定めており、毎月の売上金額について「売上表」で確認するほか、毎月1回の早朝に全社員が集まる「第一月曜会議」において、各人が前月の売上金額を発表し、達成状況を共有している。主に内勤業務を担当するパート社員にとっての売上とは社内作業を金額化したものであり、同社の経営計画書にある「補助者業務単価表」には、約30項目の作業に対する社内売上金額が明記されている。

また、実際の売上に対し、その売上に直接関わった営業の社員だけではなく、事務等裏方作業のパート社員の貢献度も勘案するために、その売上について正社員とパート社員の間で一定の配分比率を定めている。この配分比率についても経営計画書内で定めており、作業の成果(売上)について、正社員とパート社員とが公平に評価される仕組みが整備されている。

業務の成果に応じた手当と賞与の支給

同社ではパート社員に対しても夏季(6月)・冬季(12月)・決算時に賞与を支給しているが、金額の査定は、先述の売上目標の達成状況を加味し決定している。また、繁忙期である確定申告終了時には、パート社員を含めた全社員に対し「繁忙期賞与(確定申告手当)」も支給している。なお、パート社員に対する賞与の年間支給総額は、1名につき5~10万円程度である。

また、給与計算を請け負った場合には、その給与計算人数に合わせて給与計算手当を毎月加算している。給与計算手当の金額については、同社の諸手当マニュアル内に明記している。

面接シート等を活用して必要な能力・スキルの習得状況を項目別に確認

パート社員には、各部門で必要なスキルや能力について「定性面」「スキル面」の項目別に明記した「パンジーさん面接シート」が配布される。会社の理念や価値観の共有、社会性、コミュニケーション能力等の「定性面」の習得に関しては、部門(課)のチームリーダーが年に4回個人面談を実施し、「パンジーさん面接シート」にある22項目について、それぞれ3段階で評価した上で、個々のパート社員と共有する。会計・税務で求められる知識や作業力等の「スキル面」の習得に関しては、チームリーダー(課長職)が責任者として教育した上で、「パンジーさん面接シート」の30項目について、実務又はテストを通じて確認する。達成した項目は、月末最終日又はテスト合格時にチームリーダーが個々のパート社員の保有している「パンジーさんステップアップカード」にハンコを押すことで、キャリアアップの状況を可視化するようにしている。

なお、「スキル面」のテストは毎年3回、項目別に実施され、各項目80%以上の正解で合格する仕組みになっている。

「パンジーさん面接シート」と「パンジーさんステップアップカード」(イメージ)

パート社員向け勉強会の開催と正社員向け勉強会のWeb公開

同社では技術的な教育よりも、会社の理念、考え方、価値観の教育の徹底を重視しているため、同社の運営方針の基盤である「経営計画書」を使って、正社員には毎週1回、パート社員には毎月1回、月曜日に代表自らが「月曜勉強会」を開催し、理念の浸透を図っている。

更に、パート社員とのコミュニケーション向上のため、女性として子育てをしながらキャリアを積んだ経験を持つ専務取締役が中心となって「パンジーさん勉強会」という研修会も、毎月1回開催している。「パンジーさん勉強会」では、確定申告、法定調書、償却資産等、年間の業務サイクルに合わせてテーマを設定するほか、事前にパート社員から取り上げてほしいテーマについての希望を聴取することもある。

また、2015年度からは、社内向けに「K-Tube」というサイトを作成し、正社員の研修・勉強会の様子を動画で掲載するほか、同社で顧問企業向けに開催しているセミナー「古田土経営塾」を視聴できる会員制サイトをパート社員にも閲覧可能にすることで、パート社員が自宅のパソコンやスマートフォンで、正社員と同様に勉強できる環境を提供している。

段階的に正社員へ転換

パート社員の正社員への転換については、パートタイマー就業規則及び経営計画書に明示されており、入社後6か月以上の勤務ののち、本人の希望で随時受け付けている。転換を希望する者については、まずフルタイム勤務のパート社員として3か月~1年程度勤務する中で、勤務態度を再確認すると同時に、スキルの水準が正社員の登用条件の目安である「社内売上の水準9百万円以上」(決算業務等ができるレベル)に達しているかを判断した上で、本人に意見表明文(様式自由)で正社員転換後の意欲について具体的に表明してもらう。それらを踏まえ、部門(課)のチームリーダー面接、部長及び専務の面接を経て正社員転換が決定される。転換までの流れは以下の図の通りである。

現在就業中の社員のうち、8名がパート社員から正社員へ転換した者であり、更に2名のパート社員が、現在正社員への転換を希望している。

なお、正社員Bコースに転換ののち、時間の制約の有無に応じて正社員Aコースへの転換も可能であり、パートタイム勤務のパート社員が、突然の残業対応をせざるを得ないフルタイムの正社員に転換するのではなく、段階的に正社員へとキャリアアップできる仕組みが用意されている。

パート社員~正社員登用までの流れ(イメージ)

IT環境整備と面談機会の設定で双方のコミュニケーションを深化

同社では、毎朝8時45分から朝礼を実施し、社内情報や伝達事項の確認を行っているが、パート社員の多くは10時からの出社であり、以前は社内の情報を十分に共有できていなかった。そのため、2013年度よりグループウェアソフトを導入し、掲示板で社内情報を閲覧できるようにしたほか、朝礼での伝達事項についても一斉メールを配信し、全社員が共有できる体制を整備した。同時に、チャットワークも導入し、全社員が個人のスマートフォンからもチーム別・プロジェクト別の連絡事項を送付・確認できるようにしたことにより、正社員からパート社員への作業の指示がより円滑に進むようになった。

また、先述の「パンジーさん勉強会」終了後には、毎回昼食会を実施し、パート社員の悩みや会社への意見等、周りの社員や男性には話しづらいことを女性同士で気軽に言い合える機会を提供するほか、部門リーダーとパート社員との年4回の個人面談で把握したパート社員の悩み、問題点等の情報については、各リーダーが全役職者向けに送付する「週報メール」に記載することをルール化し、現場で起こっている問題を役職者がタイムリーに把握できるような体制づくりに努めている。

障害を持つパート社員もキャリアアップ

同社では、障害者の雇用にも積極的に取り組んでいる。現在、正社員1名、パート社員4名の障害者を雇用しているが、この正社員はパート社員として入社したのちに簿記2級を取得して正社員へ転換した者であり、障害を持つ他のパート社員たちにとって目指すべき存在となっている。

全社員と家族を対象としたイベントの企画・開催

同社では社員旅行として海外旅行と国内旅行を毎年交互に実施しているが、国内旅行についてはパート社員とその家族も招待しているほか、毎年4月2日を会社の休業日として定め、パート社員を含めた全社員とその家族をディズニーリゾートに無料で招待している。

更に、毎年8月にはパート社員を含む全社員の子どもを会社に招待する「ファミリーデー」を実施している。これは、会社見学と簡単な仕事の体験を通じて、父親・母親がどのようなところで働いているかを子ども達に知ってもらうためのイベントである。

4. 取組に当たって工夫した点・苦労した点

会計事務所・社労士事務所は、近年業界全体が不況状態にあり、資格保持者や業界経験者による応募数が年々減少している。そのため、現在は、即戦力となるような専門知識のある経験者からの応募はほぼ見込めず、正社員は新規学卒者、パート社員も業界未経験者の採用に力を入れ、定期的な勉強会の開催やステップアップカード等の活用を通じて自社で一から社員を教育するということを、徹底して実践している。

しかし、同社のパート社員の多くは、自身の生活環境等の理由により勤務時間に制限を抱えていることから、日々の業務を個人で完全に処理しきれない場合も多いため、他の社員や会社に対して負い目を感じる傾向も強く、あまり自分から積極的に会社に対する意見を言わない。そのため、勉強会後の昼食会、チャットワークや掲示板、日報の提出やリーダーとの面談を通じてパート社員から意見を引き出し、社員とのコミュニケーションが密になるよう努めたことは、工夫した点であり、苦労した点でもある。

5. 取組の効果と今後の見通し

正社員の業務を切り分け、それをパート社員に担当してもらうことで、正社員の業務効率が改善されただけでなく、同社の商品、サービスの内容と質が明確になり、担当者が変わっても同質のサービスを提供できる体制が整った。パート社員に対する雇用方針を明示した同社の「経営計画書」は、運営方針の基盤であると同時に主力商品の手本として、顧客である中小企業に対し公開している。

商品力の増強と業務効率の改善により、取組開始当初(1990年当時)は150社であった顧客数が現在2,000社にのぼり、売上高は創業以来33期連続で増収を続けている。

パート社員に係る取組に特に力を入れた2011年以降、成果は更に顕著に数値にあらわれるようになり、2011年以降の経常利益は3年連続で3億円を超え、売上高経常利益率も2006年~2011年は16.1%~20.9%に対し、2011年以降は23.8%~26.4%と、過去最高の水準であった。労働生産性も高まり、2006年~2011年は50%台後半であった労働分配率が、2012年~2014年は49.3%~53.0%まで低下した。同時に、従来は非常に残業時間が長く、帰社時間が24時を超えることも多かった正社員の労働時間は大幅に短縮された。現在では、全社員の95%以上が8時半までに退社するようになっており、パート社員の能力向上、担当業務の拡大は、人件費削減や正社員の勤務時間短縮にもつながっていると言える。

また、パート社員も年間の売上目標を設定し、自身で集計・確認し、その達成状況を全社員で共有した上で、結果を賞与に反映させるという取組を通じて、「前年度より高い売上目標を達成したい」というパート社員の成長意欲や、「自分たちも会社の重要な戦力である」という意識がパート社員にも根付いてきたことにより、上記のような業績の改善が実現しただけでなく、同社が顧客企業に誇る、明るい社風の基盤ができ上がった。現在同社で実施している朝礼は、毎年多くの見学者が訪れ、顧客企業から「日本一明るい朝礼」と謳われる同社の風物詩である。このような朝礼を生み出すに至った背景には、全社員に対する教育の徹底や売上目標の設定による、団結力やモチベーションの高まりが大きく影響していると言える。

上記のような取組による業績、生産性、労働環境、社風の良さについては、経済産業省「おもてなし経営企業30選」(2013年)、中小企業庁「がんばる中小企業300選」(2014年)、東京都「課題環境型整備事業」(2014年)選定等、多方面から評価を受けている。

今後は、時間に制約の多いパート社員が更に働きやすい環境を整備するべく、時間単位での年次有給休暇取得を可能とするなどの取組を検討中である。

従業員の声

パートタイムでの入社から正社員転換、資格取得、リーダー登用へ
自身の後に続くパート社員を育てたい(総務・人事・労務、勤続8年)

入社当初は子どもが小さかったこともあり、週4回、10時から16時勤務のパート社員として勤務していたが、7年前より勤務時間をフルタイムに変更、6年前からは正社員Bコースに転換した。現在は人事労務課に所属し、顧客企業に対する就業規則の説明や労務相談を担当している。

パート社員として勤務していた当初、家庭の事情により正社員雇用での就職の必要が生じ、退職を申し出たが、同社で一生働いて欲しいとの言葉をもらい、休職を経て正社員に転換した。休職後は人事労務課配属となり、独学で数年前に社会保険労務士の資格を取得。もともとパート社員にもどんどん挑戦をさせてくれる職場であったことから、正社員転換によるやりがいという点での変化は感じないが、仕事内容は以前とは全く異なり、責任のある業務を任せてもらえているという実感がある。2015年10月からはサブリーダーの役職についた。今後は後続の育成にも力を入れ、自身を見本として正社員登用、資格取得にチャレンジするパート社員を増やすことで、生涯働ける場所を提供してくれた会社へ恩返しをしたい。

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