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株式会社イトーヨーカ堂
平成27年度「パートタイム労働者活躍推進企業表彰」
最優良賞(厚生労働大臣賞)
計画的な教育・育成システムによる人材育成や、ライフステージに合わせて、一人ひとりが働き方を選べるステップアップ選択制度、並びに評価や職責等による加給を実施
正社員転換推進措置
所在地 | 東京都 | 業種 | 小売業 |
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従業員数 | 49,222名 | パート労働者数 | 39,746名 |
事業概要 | 食料品、衣料品、住居関連商品、医薬品等を扱う総合スーパー |
ポイント |
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審査委員はここを評価
パートタイム労働者の多様な意識を前提にしつつ、納得性のある評価制度、処遇制度等、きめ細かい人事制度を構築したケースであり、労使が協調してパートタイム労働者の処遇改善に取り組んでいる点も重要なポイントといえます。
1. 企業概要・人員構造
同社は、1920年の創業以来、総合スーパーとして食料品、衣料品、住居関連商品、医薬品等を取り扱い、北海道から広島までの国内約190店舗と、中国の11店舗を展開している。
同社では、正社員約7,800名(勤務地限定有り約3,300名、同無し約4,500名)、「フィールド社員」と呼ばれる月給制の契約社員を約940名、「パートナー社員」と呼ばれるパートタイム労働者を約34,000名、「ヘルパー社員」と呼ばれるパートタイムの学生アルバイト約6,000名を雇用している。
パートナー社員の大多数は各地の店舗に配置されて、入社時に格付される「レギュラー」として現場業務を担っている。そのほかに、優秀でチームの中核を担う「キャリア」、正社員と同様にマネジメント業務を担う「リーダー」、60歳以降も継続して勤務する「シニア」の計4つの区分がある。2015年2月には、レギュラーパートナーは約24,000名、キャリアパートナーは約2,700名、リーダーパートナーは約2,200名、シニアは約6,000名となっている。
勤続1年以上で週の勤務時間が20時間を超える契約のパートナー社員は、同社の労働組合に所属し(2014年度の加入率80%超)、正社員と同様に、労働組合が労使の相互理解の促進や処遇の改善を図っている。賃金制度は、時給金額には地域間格差があるものの、全店で同一の仕組みを適用しており、全社的な公平感と高い透明性を確保している。
なお、同社の正社員は勤務地に関して2つのコースに区分している。勤務地を限定しないナショナル社員と、勤務地を限定するエリア社員があり、社員は希望すれば無試験で区分の変更が可能である。
2. 取組の背景とねらい
同社では、長年にわたってパートタイム労働者を雇用しており、早くから役割に応じた処遇や役職への登用、正社員登用制度を導入してきたが、2006年に、労働組合がパートナー社員の加入に向けて動き出したのを機に、パートナー社員の処遇について見直しを図った。
従来の制度は、年2回1名ずつ評価を実施して、その結果を賃金に反映したり等級による格付を行ったりするなど、仕組みは現在と大きく変わらないものであった。しかしながら、パートナー社員を対象に、制度に関するアンケートを実施したところ、評価の賃金への反映度が非常に大きく、上昇志向が強いパートナー社員の層にとっては良い制度であるが、現場業務が好きでスキルアップを目指しているものの管理業務には就きたくないという層にとっては適切ではないことが判明した。
アンケートや面談の結果から、パートナー社員の考え方には大きく3つの傾向があり、「パートナー社員のリーダーとして管理業務に就いたり判断や決定に携わったりしたい者」、「そうでない者」、「時期によって希望が変わる者」のいずれも一定数いることが分かった。
そこで同社では、能力とキャリアプランの組み合わせを選択できる制度を創設した。基本的には、現場業務で求められる姿勢や技能、能力に基づいて評価・処遇するシステムであるが、本人がそのような処遇(その先に求められる管理業務)を希望しない、と会社に申請できる仕組みである。
2007年3月に、パートナー社員を後述の3段階に区分し、ステップアップした者には職務に応じた手当を支給するとともに、昇給率や賞与にも反映する現行の制度を導入した。
3. パートタイム労働者の活躍推進のための具体的な取組
パートナー社員の人事処遇制度を冊子にまとめ、配布して周知
同社では、「パートナー社員人事処遇制度」を冊子にまとめ、パートナー社員として入社した際に配布している。その中で、評価制度、ステップアップ選択制度、処遇制度、フィールド社員へのチャレンジ等について、詳細に説明している。
職務に応じた評価を半年ごとに実施
同社では、全社員を対象に、セルフチェックに基づく評価を半年ごとに実施している。職務と階層に応じた「セルフチェック用紙」を配布し、まずは自己評価をさせる。評価項目は、①会社の理念につながる基本姿勢、②基本動作、③担当業務や役割における創意工夫、の3分野に分かれている。それぞれの分野に約25項目の行動指標があり、3段階又は5段階で評価する。
パートナー社員向けの用紙は、職務やレベルごとに12種類あり、業務における基本姿勢や基本動作、役割を具体的に記載している。特にリーダーは、創意工夫により業務をより効果的に発展させることができるかを問われる内容となっている。
本人が自らの達成度・実現度を評価した後、マネジャー等上長に提出し、上長が本人との面接をふまえて第一次上長欄に点数を記入、最終的には店長が全体のバランス等も配慮の上、店内全員の最終評価を決定する。ミスや矛盾がないか、システムによるチェックも実施する。
評価の透明度を確保するとともに、評価理由を共有し、次期に向けての課題を確認するために、用紙は3枚複写式になっており、評価が決定してから、1枚は本人に戻し、上長と本社人事部で1枚ずつ保管する。
セルフチェック用紙(イメージ)
年2回(上期・下期)の評価結果については賃金改訂を始めとして賞与、ステップアップ(後述)、役職登用、準社員・正社員登用等に反映する。
評価結果の処遇への反映
項目 | 適用 |
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賃金改訂 | 前年2回の評価結果 |
賞与 | 前期1回の評価結果 |
ステップアップ | 過去4回の評価結果 |
役職登用 | 過去4回の評価結果 |
賃金改訂 | 準社員・正社員登用 |
ステップアップ区分に応じて加給し、昇給率も上がる
同社では、全店共通のパートナー社員人事処遇制度に基づき賃金を決めている。店舗ごとに決まった曜日別・時間帯別の賃金テーブル表から算出した基礎時給に、様々な要素を加給する。
最も重要な要素は、後述のステップアップ区分である。区分に応じてステップアップ給を加給するだけでなく、ステップアップ区分によって賞与の算出係数が異なる。ステップアップするほど、昇給率も上がる仕組みになっている。
鮮魚・精肉・惣菜部門においては、社内で技能レベルを1から5まで定めており、レベル3以上の認定を受けると、30円から350円の技術技能給を時給に加給している。
賃金(時給)項目を構成する要素
また、同社では職能等級と役職を分離しているため、チーフや担当マネジャーといった役職に任命した者には、職責給を加給している。パートナー社員やフィールド社員も役職に登用しており、更にマネジャー任命にはステップアップ区分による制限はなく、職場ごとに最適な人材を任命するため、レギュラーパートナーが就任することもある。2014年度には、212名(男性28名、女性184名)のパートナー社員及びフィールド社員を役職者に登用した。
多様な働き方を反映させやすい、ステップアップ選択制度
同社では2007年に、パートナー社員について、従来の画一的な制度から、より本人の意思を反映しやすい人事処遇制度を導入した。パートナー社員に「レギュラー」、「キャリア」、「リーダー」の3つの区分を設定し、本人の希望と職務遂行能力に応じて、順次ステップアップしていく仕組みである。パートナー社員は、ライフステージに合わせて、「ステップアップを希望しない」ことを申請できる。
入社するとまずはレギュラーパートナーとなり、販売員としての基本姿勢や基本動作を身につける。継続的に優秀であると評価され、本人の希望と上長の推薦があれば、キャリアパートナーになる。キャリアパートナーには、優秀な技能や高い技術を活かして部門成績向上に貢献することが求められる。
キャリアパートナーとして継続的に優秀であると評価され、役職者のアシスタントや代行業務を担えそうであれば、本人の希望と上長の推薦により、リーダーパートナーになるための筆記試験を受けることができる。
筆記試験では会社に関する基礎知識、企業方針、原価や粗利の計算、時事問題等を出題し、マークシートで回答させる。筆記試験で所定の正解率を達成すれば合格となり、リーダーパートナーとなる。
リーダーパートナーには、部門運営においてリーダー的な立場でほかのメンバーの教育や育成に貢献し、正社員と同じレベルで判断やマネジメントを含む業務を担うことが求められる。
ステップアップ区分のイメージ
区分 | イメージ | 認定要件 |
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リーダー | 役職者のアシスタントとして代行業務や連携業務を行う者。日々の部門運営のリーディングはもとより、メンバーの教育・育成を実践してレベルアップを図っている者。 |
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キャリア | ほかのパートナー社員と比較して優秀な仕事ぶりを継続している者。リーダーパートナー候補として役職者のサポートを行ったり、優秀な技術・技能を活かしたりして部門の成績向上に貢献している者。 |
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レギュラー |
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主体性と積極性を引き出すために、計画的な教育システムを導入
同社では、地域に根ざしたパートナー社員の主体性と積極性を引き出すために、現場OJTを教育の中心とする一方、地域間・店舗間での水準差が出ないよう本社の教育推進部門が教育・育成システムを構築している。同社の教育推進部門には、技術と育成の2つの部があり、トレーナーと呼ばれる指導員(正社員)を、店舗を管轄するゾーンマネジャーの下に配置し、店舗のニーズに基づいた教育を実施している。
入社時には、パートナー社員とヘルパー社員全員に、「入社時研修テキスト」と携帯可能な就業規則「社員のしおり」を配布し、入社時研修を受講させる。入社時研修では、店内の各設備の説明だけではなく、イトーヨーカ堂の社員とし てふさわしい人物となるよう、店舗の主要幹部が、企業理念、会社概要と歴史、行動指針、情報管理、身だしなみや言動に関する社内ルール、店舗の設備、売場での動き、接客における考え方やスタンス等を、テキストに基づいて説明する。また、地域や拠点によって研修内容や教育レベルに差異が出ることを防ぐために、入社後1か月研修は、トレーナーが実施する。
更に、新規採用者と同じ店舗に勤務する先輩パートナー社員を「メンター」に指名し、業務上の精神的な不安をフォローすることにより、定着率向上につなげている。
上司には話しづらい体調や家族に関することは、各店舗に配置されている、身だしなみ基準や福利厚生を担当する役職者に相談できる。
1年間の育成計画を作成した上で、OJTやOff-JTを実施
各店舗では「教育テキスト」を利用して、各パートナー社員に1年間の育成計画を作成した上で教育を実施している。
配属部門ごとに中期的に実施する「販売員の基本教育」も、「基礎編」、「単品管理編」、「知識技術編」の3段階で実施し、「基礎編」では基本的なお客様対応と売場業務の基礎を、「単品管理編」では商品の発注手法を、「知識技術編」では商品知識や専門技術・技能を学ばせる。
同社では、各店舗でのOJTやOff-JTに加えて、必要に応じてトレーナーが店舗に出向き、教育を実施することにより、サービスの質を一定水準以上に保っている。これは、店舗が多忙で十分に指導できず放置されたと感じたパートナー社員が離職するのを防ぐ役割も果たしている。トレーナーは、特殊な技術である生鮮加工技術については生鮮技術検定に向けた研修を、また、衣料品や住宅用品については接客研修を実施している。
リーダーパートナーからフィールド社員へ、フィールド社員から正社員に転換
同社では、リーダーパートナーとして高い評価を得て、本人希望と上長推薦がある場合には、リーダーパートナーからフィールド社員を経て、正社員に転換することができる。
フィールド社員転換制度、正社員転換制度についての詳細は就業規則に記載している。いずれの転換も、条件は所定の評価を満たしていること、上長の推薦があること、年1回の筆記試験と面接試験に合格することである。
パートナー社員は、まず、フルタイム勤務で月給制の契約社員である「フィールド社員」と呼ばれる準社員に転換する。フィールド社員は1年契約で、自宅から45分以内の店舗に勤務する(店舗間異動あり)。労働時間は週40時間で、兼業不可となる。
筆記試験は、記述式で、企業理念や方針、オペレーション、ルール、判断に関する諸項目、経費の計算や収益性の判断方法、時事問題等に回答する。面接試験は、本社の人事室が実施する。パートナー社員からフィールド社員への登用者数は2007年~2015年の累計で600名にのぼる。
また、フィールド社員として1年以上勤務し、継続的に高い評価を得ると、本人希望と上長推薦により、正社員転換試験を受験することができる。2014年~2015年のフィールド社員から正社員への登用者数は約80名である。
正社員転換試験合格者は、全国転勤を伴うナショナル社員か地域限定で勤務するエリア社員のどちらかを選択する(ナショナル社員はエリア社員に比べて給与が高く、更にエリア社員は地域毎に給与の格差がある)。
なお、同社では、全店に同じ賃金制度を適用している。そのため、フィールド社員や正社員に登用され別の店舗へ異動した後も、同一の賃金制度が適用される。
レギュラーパートナーから正社員までのステップアップ
パートナー社員の持っている、商圏の生活情報を活用する仕組みを整備
同社では、各店舗内におけるコミュニケーションを重要視しており、全パートナー社員が出席できるよう、勤務開始時間に合わせて毎日数回の朝礼を実施している。朝礼では幹部が、連絡事項に加えて、経営や運営における方針や、パートナー社員が店舗の一員として全体方針をどのように実践したら良いかなどを、分かりやすく伝えている。
また、パートナー社員に情報を伝えるだけでなく、地域の生活者でもあるパートナー社員がもつ地域行事や学校行事、マンションや住宅の開発等の商圏の生活情報を吸い上げて、店舗運営にも活用している。パートナー社員は、月1~2回開催される「地域生活委員会」と呼ばれる情報共有の場でも中心的な役割を果たしている。全店のパートナー社員が、担当する売場の日々の発注業務を担っているため、地域の情報を、品ぞろえや発注数量に直接反映することができる。自らの情報や意見を活かすことで、パートナー社員の自主性を高めるとともに、販売増加による達成感にもつながっている。
正社員に準じた福利厚生や育児・介護支援制度を適用
同社では、ほとんどの事業所に社員食堂を設置し、全従業員が利用できるようにしており、健康に配慮した低カロリー低塩分のヘルシーなものを含む複数のメニューを提供している。また、グループ共通の社内保険制度に、正社員だけでなくパートナー社員も任意で加入できる。
また、パートナー社員にも年次有給休暇のほか、特別休暇(結婚休暇、忌引休暇等)を付与しており、看護休暇と介護休暇についても正社員と同様に有給となっている。そのほか、男性の育児参加に向けた風土づくりを行っており、パートナーを含めた未就学児を有する社員全員に育児休暇(育児休業制度とは別に1日単位で取得可能な、育児のための有給休暇制度。年に5日取得可能。)を導入しており、特に男性の取得を勧奨している。2015年4月現在、正社員も含む男性の対象者の約7割が育児休暇を取得している。
育児や出産及び介護の支援については、出産や介護を機に辞めるパートナー社員が相当数いたことから、1991年に正社員向けに導入した「リ・チャレンジプラン」の対象に、2002年にパートナー社員を加えた。「リ・チャレンジプラン」は、働く意欲のある人に、長く仕事を続けてもらうための仕組みである。短時間勤務プラン、午後7時以前に勤務終了プラン、休職プラン、再雇用プランがあり、個人差を考慮して本人がプランを自由に選択でき、プランを組み合わせての利用も可能である。本社労務部門に設置しているリ・チャレンジプランの専任担当者がおり、制度や手続きの説明や復職までのプラン設計等のアドバイスを行い、制度利用者の心配や不安を払拭するための窓口となっている。また、復職前には、一人ひとりと直接会話し、保育園の入園可否や復帰候補店の相談にも応じ、復帰後は、問題が起きれば上長と本人の間に立って第三者的に調整する役割も担っている。休職プラン制度の利用者には、休職中も月1回社内報とともに職場の近況を知らせるリ・チャレンジメールを送付するなど、円滑な職場復帰のための支援を行っている。パートナー社員のリ・チャレンジプラン利用実績は、制度導入以来延べ1,000名以上である。
リ・チャレンジプラン
休職プラン (育児・介護) |
本人の申請により、育児のために子どもが1歳に達する直後の4月15日まで(やむをえない場合は1年間延長可)、または、家族の介護のために最長1年間休職できます。 ※父母がともに育児休業を取得する場合、取得期間は1歳2ヶ月に達する直後の4月15日まで可能。 |
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短時間勤務プラン (育児・介護) |
本人の申請により、育児のために子どもが中学生になる年の4月15日まで、勤務時間を最大2時間短縮できます。 介護のためには、2~3年間勤務時間を最大2時間短縮できます。 ※休職プランと併用できます。 |
午後7時以前の勤務終了プラン (育児) |
本人の申請により、育児のために子どもが中学生になる年の4月15日まで、店舗の閉店時間にかかわらず午後7時以前に終了するシフトで勤務できます。 |
再雇用プラン (育児・介護) |
本人の申請により、育児・介護を理由に一度退職した後に、優先的に再雇用を受けることができます。 |
リ・チャレンジプラン利用者数(2014年度)
2010年度 | 2011年度 | 2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | |
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育児 | 226(87) | 286(97) | 208(100) | 178(87) | 208(96) |
介護 | 28(23) | 10(7) | 23(18) | 14(10) | 13(9) |
※( )内はパートナー社員の利用者数
労働組合と連携して、透明性のある賃金改訂や賞与額の決定を実現
同社では、賃金改訂の昇給額や賞与の支給額を労使で決定し適用することで、高い透明性を保っている。パートナー社員に対しても正社員と同様にベースアップも実施している。
入社時に全従業員に人事処遇制度を説明した冊子を配布しているが、賃金改訂や賞与支給時には、労働組合から当該期の具体的な数値を盛り込んだ説明書を正社員だけでなくパートナー社員にも配布し、上長には尋ねにくい点も問い合わせることができる体制を整備している。
パートナー社員の多くは、店舗で勤務している。その中で現時点では、32名が「パートナー専門委員」に選出されている。同委員で構成される「パートナー専門委員会」では、各地域やお店での良い取組を共有すること、労働環境改善に向けた意見交換や提言を行うこと、専門委員が各地区の近隣店の代表相談窓口として各店のパートナー社員の相談相手になること等を実施している。また、パートナー社員を中心とした座談会を実施し、お客様・働く現場の視点で、会社全体の仕組みや構造に関する提案や希望を吸い上げる工夫を行っている。同社では、どんな内容であれ「言っても仕方がない」と従業員に感じさせることがないよう、意見や思いを話せる仕組みを労使が共同して用意している。
4. 取組に当たって工夫した点・苦労した点
同社では、2007年度に新制度を導入して以来、パートタイム労働者が一層活躍しやすくなるように、そして、制度創設の理念に沿って運用できるように、試行錯誤を重ねてきた。
例えば、これまでは仕事に対する自分の価値観や都合を認めるという風土がなかったため、熱意を持って仕事に従事しているにも関わらずステップアップを望まないことでやる気がないと誤解されることがあった。また、制度導入当初は、パートナー全員に「ステップアップしない」という意思の有無を確認していたが、実際に登用辞令を渡す時には以前の申告内容と変わったというケースが多くみられた。結果として現在は、能力的にレギュラーパートナーからキャリアパートナーにステップアップ可能な者のリストを上長が作成し、辞令を準備した上で交付の際に、本人にステップアップの意思があれば辞令を受け、本人が希望しない場合には辞退するという形式で運用している。
また、制度の周知や、評価表を始めとする制度のツールの作成の際も実態を捉えやすいよう工夫を重ねてきた。
例えば、セルフチェック用紙は、階層別・部門別に12種類ある。セルフチェック用紙を同一にしようとすると、業務の具体性を欠くため、種類を分け、各々の目的や役割に即した内容とした。同時に、記入箇所が多すぎて運用が難しくなるのを避けるため、設問にも工夫している。
セルフチェックは、熟練度でなく職務遂行力を確認するツールであるため、レギュラーパートナーとキャリアパートナーには共通のものを適用するが、リーダーパートナーは、職務のレベルが異なるため、別のものを用いている。
また、ステップアップによる意識の切り替えについても、辞令を社長名のペーパーで出し、各店で店長から一人ひとりに手渡し、更に研修テキストを送付する形式として、新たな気持ちで業務に取り組めるよう工夫を凝らした。職能等級は役職ではないため、業務上の目に見える変化はないが、こうした工夫によって立場が変わることを意識してもらう効果がある。
5. 取組の効果と今後の見通し
同社では、パートナー社員が入れ替わると採用と教育のコストがかかり、オペレーション上の不具合も起きやすいため、できる限り長く働いてほしいと考えている。新制度を導入した2007年度と2014年度を比較すると、パートナー社員の平均勤続年数が、男性は3.1年から6.0年に、女性は5.0年から7.1年に、それぞれ向上しており、新制度導入による成果があったと判断している。
新制度では、パートナー社員一人ひとりが自身の都合に合わせてステップアップを選択することができるようにしたところ、フィールド社員・正社員ともに登用者が増加した。パートナー社員の中でも、ステップアップ区分により、役割に応じた処遇を実現することができ、全体的な処遇水準が上がった。リーダーパートナーやフィールド社員が、正社員の業務の一部を担えるようになったことから、役職への任用も進み、2014年度の役職者は210名以上となった。
店舗の売上は、お客様のニーズを捉えた品ぞろえと数量のマッチング率によるところが大きいため、地域に密着した生活者として、その地域の様々な情報を持つパートナー社員が、職務に積極的に取り組み、発言する様子がみられるようになったことは、店舗の売上にも良い影響を与えている。売場における品ぞろえにパートナー社員の意向を反映させたところ、日々の言動の中に、高い意識や責任を感じるようになり、店舗業績は日々の発注業務を担うパートナー社員次第とも言える状況である。
今後も引き続き、パートナー社員が、日々の業務に意欲をもって取り組めるよう、制度を整備していきたい。
従業員の声売場のパートナー社員出身で初の副店長として活躍
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