事例1-2-9 教育、学習支援業

部門単位で役割職責評価を実施し、個々の社員の役割を定義した事例

1. 企業概要

所在地 中国・四国地方
従業員数 約3,000 名(ほぼ全員が正社員)
主な事業内容 教育事業

2. 取組のポイント

  • 仕事の特性を考慮した7 つの軸(いわゆる職務評価項目)に基づき、対象者の役割の大きさを判定して、役割職責バンド(14段階)に格付けしている。
  • 毎年、役割職責(いわゆる社員ランク)の見直しを実施している。
  • 社員各人の事業計画達成に向けた貢献に対する期待と仕事の両面を加味した役割評価(役割職責評価)を実施している。

3. 人事制度改革の経過

同社では、これまで何度も大きな人事制度の改定を実施してきた。ここでは、そのうちの平成21 年度に実施した制度改定について取り上げる。
平成21 年度改定の人事制度で目指したことは、「社員一人ひとりを最大限活かしていくこと」、「社員一人ひとりが明確な強みを持ち、その強みを活かした貢献をしていくことで、事業を伸ばし、事業を成長させる」ということだった。このため、社員に対しては、「日々の仕事の中で自分の強みを伸ばし、多様な貢献ができる仕組み」、「自分の強みと事業の方向性をすり合わせ、活躍の方向性を主体的に選択ができる仕組み」、会社(管理職)に対しては、「個々の社員が強みを伸ばし、継続して貢献できる機会や環境を提供できる仕組み」を構築することを基本コンセプトとした人事制度改定の方針が打ち出された。この方針に基づき、「成果発揮と成長支援の実現に向けた目標・評価のマネジメントPDS」の仕組みをベースに、社員の成長と役割に対する貢献に応じた新グレード・評価報酬制度、社員の成長ステップに応じた研修制度、全社最適・適材適所・中長期育成を実現するための異動・配置の実施、人が育つ組織を実現する管理職の任用と支援を行う仕組み等を構築した。
そして、新グレード・評価報酬制度を構築する際に、仕事に対する役割評価(いわゆる職務評価)を実施した。また、事業計画達成に向けた貢献に対する期待について、社員各人が役割職責に応じた目標を設定した。

4. 役割職責制度の実施ポイント

(1)実施した役割職責制度に関する基本情報(平成21 年改定)

図表3-6-1 実施した役割職責制度の基本情報

実施目的 ・管理職及び一般社員の中・上位者(同社で「シニア」「アドバンス」と呼ばれる社員ランクに格付けされている社員)を対象とした各グレードの「役割職責バンド」を決定する際に活用
実施者 ・当該社員の上司が実施(一般社員であれば、一次評価を課長、二次評価を部長が実施)
実施対象 ・シニア、アドバンスの各グレードに在籍するすべての社員の役割、約2,000件について実施
実施手法 ・要素別点数法による役割職責評価(いわゆる職務評価)を実施・外部専門機関の提示した職務評価表を基に、オリジナルの役割職責算定基準を作成
・まず、約1割程度の現場のマネージャーやリーダーにインタビュー調査を実施して仕事の棚卸しを行い、役割職責評価を実施する際の項目やスケール、ウェイトについて検討、その上で、実際の役割職責評価を実施
・算出された得点を基に、該当する社員の役割を役割職責バンド(14 段階)のいずれかに格付け

(2)本事例から得られる役割職責評価を実施するためのポイント

Point1
外部専門機関の提示した役割職責評価表を参考に、同社の仕事の特性を反映した役割職責算定基準を作成

同社では、外部専門機関のアドバイスを基に、自社の仕事の状況を反映した図表3-6-2 にあるような7 つの役割職責算定軸を設定し、これに基づいて役割職責評価を実施した。これらの項目は同社が設定する「アドバンス」「シニア」のいずれのグレードにも適用され、スケールはアドバンスが3 段階、シニアが5 段階であり、各項目とも0.5 刻みの点数である。なお、職種に関係なく同じスケールを用いた。

図表3-6-2  役割職責算定軸(いわゆる職務評価表)

評価項目 着眼点
仕事の大きさ 影響の大きさ ① 仕事が及ぼす影響範囲と影響の大きさ
役割・職責の幅と権限 ② 仕事の範囲と権限・裁量の水準
仕事のレベル 経験・専門性 ③ 仕事に求められる専門経験と知識の水準
指導・育成役割の要求度 ④ 仕事に求められる指導・育成役割の範囲
コミュニケーションの
困難度
⑤ 仕事に求められるもっとも難易度の高いコミュニケーションレベル
問題解決の困難度 ⑥ 仕事に求められる問題解決プロセスの困難性
⑦ 仕事に求められる革新性
Point2
全対象者の役割職責評価を毎年実施

同社では、役割職責に応じて賃金が変動する仕組みとなっている。このため、同社は個々の社員が行っている仕事内容を把握するため、毎年全対象者の役割職責評価を実施している。
具体的には、同社では、目標管理制度の目標設定の直前のタイミングで対象者の会社から指定された仕事に基づき役割評価を実施して役割職責を確定している。その上で、各人が役割職責に応じた年間の具体的な目標を設定している。

5. 役割職責評価を活用して導入された人事制度

(1)グレード制度に活用

同社では、社員のグレードを以下の三段階に分け、それぞれのグレードについて図表3-6-3 のように定義している。

図表3-6-3 グレードの定義

シニア(強み活用・深耕期) ・培ってきた個々の強みを生かして、自分の裁量で自立的に活躍する。
・培ってきたものを応用し発揮し、組織全体に還元する。
アドバンス(強み発見・伸長期) ・社員としての力をさらに伸ばしながら、自分の強みを発見し、形成する。
プライマリ(土台形成期) ・社員としての基礎基本を身につける。

役割職責算定基準は、アドバンス、シニアの役割職責バンドを決定する際に活用している。役割職責算定基準により算定した得点に基づき、あらかじめ定めたアドバンスは5ランク、シニアは9ランクのうち、得点範囲が該当するランクに格付けされる。

図表3-6-4 役割職責評価結果を活用した役割職責バンドの設定(アドバンス)

図表3-6-4 役割職責評価結果を活用した役割職責バンドの設定(アドバンス)

(2)賃金制度設計に活用

同社のアドバンス・シニアの賃金制度は、「会社業績と連動した賞与」、「個人業績と連動した賞与」、「管理職加算(人事管理の責任があることから管理職であるシニアのみに支給)」、「役割職責給」から成り立っている。
役割職責給は、図表3-6-5 にあるように、役割職責バンドごとに設定された報酬レベルに基づいて支給する。なお、前年度の貢献実績も加味して、報酬レベルが決定される。

図表3-6-5 役割職責バンドと報酬レベル

図表3-6-5 役割職責バンドと報酬レベル

6. 役割職責評価を活用した効果

これまでの制度が、中長期的な本人の技術や力量といった能力的側面と、その年に会社が指定する仕事といった役割的側面を併せ持つ制度であったが、新しい制度は、後者の役割的側面をもとにした仕組みに一本化することで、より役割と賃金の連動が強化されることになり、社員の納得度は高まったといえる。

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